カスハラ研修の進め方|2026年10月の義務化で決める対処の手順と練習の記録
店舗や窓口で働く人の一番の負担は、理不尽な要求を受けたときに「自分で何とかしなければ」と抱え込むことです。2026年10月1日から、顧客などからの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)を防ぐ措置が事業主の義務になりました。
研修の資料や動画は、厚生労働省や研修会社から無料で手に入ります。足りないのは、自社の対処のルールを決め、それを一人ひとりに練習させたかを確かめる部分です。
この記事では、カスハラ研修に何を入れるかを指針に沿って整理します。練習の記録の残し方までをまとめます。
この記事の内容(9項目)
カスハラ研修が必要になった理由
改正された労働施策総合推進法33条が、2026年10月1日に施行されました。この条文は、顧客等の言動で労働者の就業環境が害されないよう、事業主に措置を義務づけています。対象は、社会通念上許容される範囲(=世間の常識で認められる範囲)を超えた言動です。範囲を超えるかは、業務の性質なども踏まえて判断します。
求められる措置は、相談体制の整備や抑止のための措置その他の雇用管理上の措置です。雇用管理上の措置とは、会社が人を雇う側として取る対策のことです。
中身を定めたのが、2026年2月26日に告示された指針(令和8年の厚生労働省告示第51号)です。指針は、次の2つを管理監督者を含む労働者に周知するよう求めています。1つは、毅然とした態度で対応し、労働者を保護する方針です。もう1つは、あらかじめ定めた対処の内容です。
指針は、その周知の例として研修・講習を挙げています。
カスハラに当たる3つの要素
厚生労働省の案内は、次の3つをすべて満たすものをカスハラとしています。(1) 顧客等の言動であること。(2) 業務の性質などに照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること。(3) それによって、労働者の就業環境が害されること。
電話やSNSなど、インターネット上の言動も含まれます。顧客等には、取引の相手方や施設の利用者、これから商品を買うかもしれない人も含まれます。
カスハラ研修は義務か、指針の中での位置づけ
「カスハラ 研修 義務」と調べる人が多いので、位置づけを先に整理します。義務になっているのは措置で、研修は措置を果たしていると認められる例です。ほかのハラスメントと同じ形です。
あわせて34条2項は、もう1つの努力義務(=努めるよう求められている義務)を定めています。自社の労働者が他社の労働者に対してカスハラをしないよう、研修の実施その他の配慮をすることです。取引先や下請けに対する自社社員の言動も、研修の題材になるということです。
派遣社員がいる職場
派遣先も、派遣労働者を雇用する事業主とみなされます。そのため、33条1項の措置が派遣先にも適用されます(労働者派遣法47条の4)。現場の対処のルールを知っているのは派遣先です。派遣社員にも、派遣先の研修に入ってもらうのが確実です。
カスハラ研修の前に、自社の対処の手順を決める
カスハラ研修でよくある失敗は、自社のルールが決まらないまま、一般論の講義だけをすることです。指針は、対処の内容を各事業主が決めるよう求めています。労働者の状況など、自社の実態に合わせて決めます。研修は、その決めた内容を伝える場です。
指針が挙げている対処の例は、次のとおりです。この6つに限るものではないとされています。
| 対処の例(指針4(1)ロ) | 研修で決めておくこと |
|---|---|
| 労働者から管理監督者等に直ちに報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐ | 誰に、どの手段で報告するか。不在のときの代わり |
| 可能な限り労働者を一人で対応させない。必要に応じて管理監督者等が代わる | 何人で、どの時点で交代するか |
| 顧客等とのやり取りを録音・録画する(個人情報保護法等を守る) | 録音を始める合図と、伝え方 |
| 十分に説明しても繰り返しの要求が続く場合は、一定時間で退店を求める・電話を切る | 何分で、どの言い方で切り上げるか |
| 暴行・傷害・脅迫など犯罪に当たり得る言動は警察へ通報する | 通報してよい場面と、誰が通報するか |
| 現場対応が難しい場合は本社・本部に共有し指示を仰ぐ/法的手続きは弁護士へ相談する | 本社の窓口と連絡先 |
正当な苦情と分けて考える
指針は、対策を講じるときに気をつける点も挙げています。消費者の権利と、障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供です。合理的配慮とは、障害のある人が困らないよう、無理のない範囲でやり方を変えることです。
「強く言われたらカスハラ」ではなく、要求の中身と手段・態様の両方で判断することを、研修の最初に伝えます。
カスハラ研修に入れる中身
厚生労働省の委託事業で、企業向けのマニュアル(令和8年度改訂版)が作られています。マニュアルは、研修の内容例を挙げています。まず、カスハラの定義と正当な苦情との違い、判断の基準と事例です。次に、類型ごとの対応方法、苦情対応の基本的な流れ、顧客への接し方です。
さらに、消費者の心理や障害特性への理解、記録の作成方法、ケーススタディなども挙がっています。
講義で伝えること
- 会社の方針(トップメッセージ)
- カスハラの定義と正当な苦情との違い
- 自社で起きやすい例
- 相談窓口の連絡先
練習で身につけること
- 一人で抱えずに報告する
- 交代を頼む言い方
- 切り上げるときの言い方
- 起きたことを記録に残す
自社の事例を使う
マニュアルは、自社の事例を使うと研修がより実践的になるとしています。過去に自社で起きた事案の紹介や、ケーススタディです。実際にあった場面を、誰の話か分からない形に書き換えて題材にします。
商品やサービスの理解も入れる
指針は、カスハラの原因や背景になり得るものも挙げています。商品・サービス・接客の問題や、コミュニケーションの不足です。苦情の初期対応を適切にすれば、カスハラに発展するのを防げる場面もあります。初期対応の練習には、研修の理解度テストの作り方も参考になります。
カスハラ研修はロールプレイで、手順を1人ずつ練習する
報告や交代の手順は、聞いただけではその場で出てきません。実際に声に出して練習した人だけを、「練習済」として記録します。そうすると、まだ一人で窓口に立たせてはいけない人が分かります。
場面は経路ごとに選ぶ
対面・電話・訪問・SNSでは、報告のしかたも切り上げ方も違います。電話なら「保留にして責任者に代わる」、対面なら「もう一人を呼ぶ合図」です。経路ごとの手順を、1つずつ練習します。
責任者の役も練習する
報告を受けた側が何をするか決まっていないと、報告しても状況は変わりません。現場責任者・管理監督者には、交代したあとの対応と、本社への共有のしかたを練習してもらいます。
カスハラ研修の記録は、練習した手順まで1人1行で
研修の記録には、法令の様式も保存義務もありません。それでも、措置の状況について労働局から報告を求められることがあります。報告をしない・偽った場合は20万円以下の過料です(労働施策総合推進法45条・51条)。過料とは、刑罰ではない、行政上のお金の制裁です。
誰に、どの手順を伝え、練習させたかを残しておけば、周知したことを示せます。
| 列 | 入れ方 | この列で分かること |
|---|---|---|
| 自社の対処ルールの説明 | 説明済/未説明 | 指針4(1)ロの周知をしたか |
| 扱った場面 | 例:同じ要求を繰り返す長時間の電話 | 自社の事例で練習したか |
| 一人で対応しない手順 | 練習済/説明のみ/未実施 | 一人で窓口に立たせてよいか |
| 報告先・指示の仰ぎ方 | 練習済/説明のみ/未実施 | その場で責任者につなげるか |
| 記録の付け方 | 練習済/説明のみ/未実施 | 起きたことを再発防止に使えるか |
| 相談窓口の周知 | 周知済/未周知 | 指針4(2)イの措置を果たしたか |
パワハラ・セクハラなどの全体研修と、同じ表にまとめたい会社もあるでしょう。その場合は、ハラスメント研修は義務かで紹介している実施記録を使えます。「種類」にカスタマーハラスメントを選ぶ形で構いません。手順の練習まで追いたい現場は、この記事の記録表が向いています。
カスハラ研修を入社時と、起きたあとにも行う
マニュアルは、研修は全員が受け、定期的に行うことが大切だとしています。中途入社の人やパート・アルバイトにも、入社時に研修や説明をします。漏れなく全員が受講できるようにすることが勧められています。
入社時は「最初の勤務の前」
接客の現場では、入社した日にそのまま店に立つことも珍しくありません。対処のルールと報告先だけは、最初の勤務の前に説明して記録に1行足します。詳しい練習は、次の研修の回で行います。
事案のあとは、その場面を題材にする
指針は、カスハラが起きたあとの再発防止の例として、研修・講習等を挙げています。方針と対処の内容を、改めて周知・啓発するための研修です。
事案の内容や対応の経緯を記録し、関係部門と共有して再発防止に使うことも考えられるとしています。共有するときは、個人情報の扱いに注意します。実際に起きた場面を次の研修のロールプレイにすると、記録が教材に変わります。
窓口担当者は別に育てる
相談窓口の担当者にも、研修を行うことが指針の例に挙がっています。中身は、相談を受けたときの対応と、相談者のプライバシー保護です。社内講師の育て方は社内講師の育成にまとめています。
カスハラ研修にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
カスハラ対策は、2025年の法改正から1年余りで施行まで進みました。研修の準備に関わる動きを並べます。
| 時期 | 出来事 | 研修への影響 |
|---|---|---|
| 2025年6月 | 労働施策総合推進法等の改正法(令和7年法律第63号)が公布された | カスハラと求職者等へのセクハラの措置が義務になることが決まった |
| 2026年2月26日 | カスハラ防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)が告示された | 研修を例に挙げる場面と、対処の例が示された |
| 2026年10月1日 | 改正法の施行と指針の適用 | 方針と対処の内容を全員に周知していることが必要に |
| 2026年度 | 厚生労働省の委託事業で企業マニュアルが改訂された(令和8年度改訂版) | 研修の内容例とケーススタディが使える |
出典の法令は、労働施策総合推進法(e-Gov法令検索)と労働者派遣法(e-Gov法令検索)です。指針はカスタマーハラスメント防止指針(令和8年 厚生労働省告示第51号、JILPT掲載の告示本文)です。
案内は厚生労働省 令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されますです。マニュアルはカスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版、厚生労働省の委託事業)です。確認日は2026年10月10日です。自社の措置の範囲は、所轄の都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)で確認してください。
よくある質問
- Q. カスハラ研修は何時間くらい必要ですか?
- 時間の決まりはありません。講義で方針と対処のルールを伝える部分と、ロールプレイで報告・交代・切り上げを練習する部分の両方が入る長さにします。大切なのは時間より、全員が手順を練習したかです。
- Q. カスハラ研修は外部講師に頼むべきですか?
- 方針や定義の講義は外部講師や厚生労働省の資料で足ります。ただし、自社の対処のルールと報告先は社内でしか教えられません。外部講師を使う場合も、後半に社内の責任者が自社の手順を説明する時間を取ってください。
- Q. 小さな店でもカスハラ研修は必要ですか?
- 措置の義務は人数に関係なくかかります。数人の店なら、全員で15分のロールプレイを1回行い、報告先と切り上げの言い方を確かめて記録に残すだけでも、方針と対処の内容を周知したことになります。
- Q. カスハラ研修の記録はどのくらい残せばよいですか?
- 法定の保存期間はありません。労働局から措置の状況について報告を求められたときに出せるよう、少なくとも直近数年分と、在籍している人の入社時の記録は残しておくことをおすすめします。
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本記事は一般的な業務の進め方を整理したものです。社内規程、契約条件、法令上の要件がある場合は、それらを優先してご確認ください。記事の内容は2026-10-10時点のものです。