社内講師の育成|人選と準備時間の目安、手当と労働時間の扱い
社内で研修をやろうという話になり、詳しい人に講師を頼む。引き受けた人は、通常業務の合間に資料を作り、当日を迎える。準備にかかった時間は、どこにも残りません。
一般には、社内講師とは、社員が講師役となって社内の研修を行うことを指します。外部に頼むより費用が抑えられ、自社の実物で教えられる利点があります。続かなくなる理由はほぼ1つで、教える側の負担が見えず、頼まれた人が損をする形になっていることです。この記事では、社内講師の育成を、人選、準備、記録、評価の順に整理します。
社内で賄いきれない分野は外に頼むことになります。依頼から当日までに決めておくことは外部講師の手配で扱っています。
この記事の内容(11項目)
- 社内講師には、外部に無い強みがある
- 自社の実物で教えられる作業は、社内でやる
- 教える側の理解も深まる
- 外部に頼むときは、記録の形をそろえる
- 講師は、いちばん詳しい人でなくてよい
- ベテランと若手を組ませる
- 頼む前に、断れる形にする
- 1人に集中させない
- 準備の時間を、先に見積もって業務にする
- 2回目からは、大きく減る
- 実際にかかった時間を記録する
- 資料は、使い回せる形にする
- 実施した記録を残して、実績にする
- 年間の実績として集計する
- 受講者の反応も残す
- 受講の記録は、研修管理表に落とす
- 教える技術は、3つだけ伝えれば足りる
- 説明の順番は、手順書のとおりでよい
- 時間を守る
- 1回で全部を教えようとしない
- 社内講師が続かなくなるときの直し方
- 手当を出すかは、あとの話
- やめる判断も持つ
- 外部に切り替える判断もある
- 社内講師を、次の指導者につなげる
- 教えられる人の数を、数えておく
- 指導者の割り当てに使う
- 本人の評価にも反映する
- 社内講師の育成にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
- 社内講師の育成に出てくる用語
- 社内講師の育成と一緒に押さえておきたいこと
- 社内講師の準備時間は、労働時間として扱う
- 社内講師の手当は、給与として扱う
- 社内講師が教える研修にも、助成金が使える場合がある
- よくある質問
社内講師には、外部に無い強みがある
費用が安いことだけが理由だと、頼まれる側は納得しません。社内講師でなければできないことを先に押さえます。
| 社内講師 | 外部講師 | |
|---|---|---|
| 教えられること | 自社の設備・製品・手順そのもの | 一般的な考え方、他社の事例 |
| 質問への答え | 「うちの場合は」に答えられる | 一般論までになりやすい |
| 研修のあと | 職場で続けて見てもらえる | 当日で終わる |
| 費用 | 人件費のみ | 謝金、旅費、教材費 |
自社の実物で教えられる作業は、社内でやる
設備の操作、製品の検査、社内の手続きは、外部には教えられません。逆に、法令や規格の解説、他社の事例は外部のほうが早いと割り切ります。役割を分けると、どちらにも頼みやすくなります。
教える側の理解も深まる
人に説明すると、自分の理解の穴が見えます。社内講師は、講師本人にとっての育成にもなります。次の指導者を育てる場としても使えます。
外部に頼むときは、記録の形をそろえる
社内と外部で記録の形が違うと、年間の実績を集計できません。どちらも同じ研修管理表に落とすと、比較ができます。外部の手配は別の表で追います。
講師は、いちばん詳しい人でなくてよい
その分野でいちばん詳しい人が、いちばん教えるのが上手とは限りません。詳しすぎる人は、初めて聞く人が何につまずくかを忘れています。
詳しさで選ぶ
20年やっているベテラン知識は確かだが、
説明が細かくなりすぎる。
受講者が付いてこられない。
近さで選ぶ
2、3年前に覚えた人つまずいた場所を覚えている。
説明が受講者の目線に近い。
ベテランは監修に回る。
ベテランと若手を組ませる
内容の正しさはベテランが見て、説明は若手が行う。2人1組にすると、どちらの弱点も補えます。若手にとっては、教える側の練習にもなります。
頼む前に、断れる形にする
断りにくい形で頼むと、引き受けたあとの準備が雑になります。何時間くらいかかるか、業務としてどう扱うかを先に示してから頼むと、返事が正直になります。
1人に集中させない
話がうまい人に毎回頼むと、その人の負担だけが増えます。年間で誰が何回やったかを数えておくと、偏りに気づけます。
準備の時間を、先に見積もって業務にする
社内講師がいちばん消耗するのは、当日ではなく準備です。準備にかかる時間を先に見積もり、業務時間として確保します。下の表は最初に置く仮の目安で、調査に基づく数字ではありません。実際にかかった時間を記録して、自社の数字に置き換えてください。
| 研修の形 | 準備の目安(仮置き) | 内訳 |
|---|---|---|
| 30分の朝礼教育 | 1から2時間 | 要点の整理、配る紙1枚 |
| 2時間の座学 | 1日程度 | 資料作り、進め方の組み立て |
| 半日の実技 | 2日程度 | 材料の準備、練習用の設備確保 |
| 2回目以降(同じ内容) | 1時間から半日 | 前回の資料の手直しのみ |
2回目からは、大きく減る
資料が残っていれば、2回目以降の準備は大幅に軽くなります。1回目の負担を業務として認めておくことが、続く条件になります。資料を個人の手元に残さず、教材の一覧に載せます。
実際にかかった時間を記録する
見積りと実績がずれていても、記録がなければ直せません。実際にかかった準備時間を残すと、次に頼むときの見積りが正確になります。
資料は、使い回せる形にする
その回限りの資料を作ると、毎回ゼロから作ることになります。手順書や既存の教材を土台にして、足りない部分だけを作ると、準備が軽くなり、内容も現場と合います。
実施した記録を残して、実績にする
社内講師は、記録が残らないと「やって当たり前」になります。誰が、何を、何人に、どれだけの時間で教えたかを残します。
年間の実績として集計する
1回ずつでは小さく見えても、年間で数えると相当な時間になります。集計しておくと、講師役の評価や、外部委託との比較に使えます。同じ内容を外部に頼んだ場合の費用と並べると、社内でやっている価値も見えます。
受講者の反応も残す
アンケートの結果を講師本人に返さないと、次に何を直せばよいか分かりません。点数だけでなく、自由記述をそのまま渡すと改善につながります。効果の見方は研修の効果測定で扱っています。
受講の記録は、研修管理表に落とす
社内研修も、誰が受けたかを追う必要があります。実施の記録は講師側、受講の記録は人ごとの一覧と分けます。運用は研修管理の方法にまとめています。
教える技術は、3つだけ伝えれば足りる
講師養成の講座に出さなくても、要点を3つ伝えるだけで、社内研修の質はかなり上がります。
| 伝えること | 具体的にどうするか | 効き方 |
|---|---|---|
| 先に全体像を見せる | 「今日は3つ話します」と最初に言う | 受講者が迷子にならない |
| やらせてみる | 説明のあと、その場で1回やらせる | 分かったつもりが減る |
| 質問の時間を最後に置かない | 区切りごとに「ここまでで」と聞く | 最後だと誰も手を挙げない |
説明の順番は、手順書のとおりでよい
研修用に順番を組み直すと、現場に戻ったときに手順書と合いません。手順書と同じ順番で教えるほうが、あとで自分で確認できます。
時間を守る
予定を超えると、受講者は次の作業が気になって聞いていません。内容を減らしてでも時間内に終えるほうが、残るものは多くなります。入り切らない分は次回に回します。
1回で全部を教えようとしない
1回の研修で覚えきれる量には限りがあります。要点を3つ程度に絞って、それを繰り返すほうが、現場に戻ってからも思い出せます。詰め込むほど、残るものは減ります。
社内講師が続かなくなるときの直し方
1年やってみて立ち消えになる。よくある流れです。
| 症状 | よくある原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 頼んでも断られる | 準備が業務として扱われていない | 準備時間を見積もって業務に入れる |
| 同じ人ばかりやっている | 実施回数を数えていない | 年間の実績を集計して割り振る |
| 内容が毎回ゼロから | 資料が個人の手元にある | 教材の一覧に載せて共有する |
| 受講者の評判が悪い | 反応が講師に返っていない | アンケートを本人に渡す |
| やって当たり前になっている | 手間が記録されていない | 準備時間まで記録に残す |
手当を出すかは、あとの話
金銭的な手当より、まず準備を業務時間として認めることのほうが効きます。手当があっても、通常業務が減らなければ負担は変わりません。手当を出す場合の給与と残業代の扱いは、下の「一緒に押さえておきたいこと」で扱います。
やめる判断も持つ
受講者に必要とされていない研修を、講師の努力で続けても意味がありません。年に1回、続けるかどうかを内容ごとに判断します。やめれば、講師の時間が空きます。
外部に切り替える判断もある
社内で教えるのが難しい内容を無理に抱えると、質が下がります。法令や規格の解説など、外部のほうが早いものは頼むと決めておくと、社内講師の負担が減ります。
社内講師を、次の指導者につなげる
講師を経験した人は、日常の指導でも教え方が変わります。研修の場だけで終わらせず、育成の役割につなげます。
| 段階 | やること | 次につながること |
|---|---|---|
| 1回目 | ベテランと組んで、説明の部分を担当 | 教えることに慣れる |
| 2、3回目 | 同じ内容を1人で担当 | 資料と進め方が固まる |
| その後 | OJTの指導者を担当 | 日常の育成が回るようになる |
教えられる人の数を、数えておく
スキルマップで、教えられる段階に達している人が何人いるかを見ます。この人数がゼロの作業は、育成が止まる作業です。増やす対象になります。
指導者の割り当てに使う
社内講師の実績は、OJTの指導者を誰にするかの材料になります。教えた経験がある人を優先して割り当てると、指導の質が安定します。割り当て方はOJT計画の作り方で扱っています。
本人の評価にも反映する
教えることを引き受けた事実が、どこにも反映されないと続きません。年間の実績を、評価や面談の材料として使うと、引き受ける理由ができます。
話してもらった内容を残す場合の扱いは研修の録画と同意にまとめています。
社内講師の育成にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
社内講師の育成そのものを決めた法令はありません。社内講師の育成に関係する開示の決まりと、国の支援制度の動きを日付順に並べます。
| 時期 | 出来事 | 社内講師の育成への影響 |
|---|---|---|
| 2023年1月31日 | 金融庁が「企業内容等の開示に関する内閣府令」等を改正。人材育成の方針と社内環境整備の方針、それに関する指標を、有価証券報告書の必須記載事項にした(2023年3月31日以後に終了する事業年度から) | 上場企業では、研修の実施回数や時間を数字で示す場面が増えた。講師ごとの実施記録は、その数字の元になる |
| 2024年10月1日 | 教育訓練給付金の拡充。専門実践教育訓練は最大で受講費用の80%、特定一般教育訓練は最大50%に(条件と上限あり) | 講師候補が社外で専門の講座を受けるとき、本人が給付を使える講座がある |
| 2026年4月8日 | 人材開発支援助成金の改正。人材育成支援コースに中高年齢者実習型訓練を新設し、eラーニングと通信制の訓練の経費助成の上限を見直した | 社内講師が教える事業内訓練も、条件を満たせば助成の対象になりうる。事業内訓練は通学制と同時双方向型の通信訓練に限られる |
社内講師の育成で押さえたいポイントは、社内で教えた実績が、開示や助成金の申請で「数字」として求められるようになっていることです。実施の記録を残しておくと、そのまま使えます。
出典:「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について(金融庁)、教育訓練給付制度(厚生労働省)、人材開発支援助成金(厚生労働省)、令和8年度版 人材育成支援コースのご案内(詳細版、厚生労働省)
確認日は2026年10月3日です。助成金は都道府県労働局かハローワークに、労働時間と賃金の扱いは所轄の労働基準監督署にご確認ください。
社内講師の育成に出てくる用語
社内講師の育成では、社内の呼び名と、助成金や法令の言葉が混ざって出てきます。出どころと一緒に並べます。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 社内講師 | 社員が講師役になって社内の研修を行うこと、またはその人 | 法令上の定義はない |
| 部内講師・部外講師 | 部内講師は、事業主の役員か、雇用されていて出勤状況と出退勤時刻を確認できる人。部外講師はそれ以外の社外の人 | 人材開発支援助成金 人材育成支援コースのご案内(厚生労働省) |
| 事業内訓練・事業外訓練 | 事業主が自ら企画し主催する訓練が事業内訓練。教育訓練機関が企画し主催する訓練が事業外訓練。部外講師を呼んでも、事業主が企画し主催すれば事業内訓練 | 同上 |
| OJT | 適格な指導者の指導のもと、業務の遂行の過程で実務を通じて技能と知識を身につける訓練 | 同上 |
| 労働時間 | 使用者の指揮命令下に置かれている時間。使用者の指示で業務に必要な学習などをしていた時間も含む | 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(2017年1月20日、厚生労働省) |
| 賃金 | 名称にかかわらず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの。講師手当も含まれる | 労働基準法 第11条 |
| 職業能力開発推進者 | 社内の職業能力開発の計画づくりや相談を担当する人。選任は努力義務 | 職業能力開発促進法 第12条 |
| TTT(トレーナー養成) | 講師を育てるための研修。研修会社の講座名として使われることが多い | 法令上の定義はない |
社内講師の育成で取り違えやすいのは、講師手当は「謝礼」と呼んでも賃金に当たることです。外部講師への謝金とは扱いが違います。
社内講師の育成と一緒に押さえておきたいこと
社内講師の育成を調べると、教え方の講座や養成研修の案内が多く出てきます。頼む側の会社として、あまり書かれていない点を3つ挙げます。
社内講師の準備時間は、労働時間として扱う
社内講師に頼んだ資料作りや練習は、会社の指示による仕事です。厚生労働省のガイドラインでも、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間は労働時間に当たるとされています。所定の時間を超えて準備した分は、時間外労働として割増賃金の対象になります(労働基準法第37条)。準備時間を見積もって業務に入れる形にしておくと、この扱いも自然にそろいます。
社内講師の手当は、給与として扱う
社内講師に手当を出す場合、その手当は賃金に当たり(労働基準法第11条)、税金の上でも給与所得として源泉徴収の対象になります(所得税法第28条・第183条)。現金で手渡しする「謝礼」も同じです。あわせて見ておきたいのが残業代の計算です。割増賃金の計算の基礎から外せる賃金は、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金に限られています(労働基準法第37条5項、同法施行規則第21条)。毎月の給与に乗る講師手当は、割増賃金の基礎に入ることがあるので、給与担当と先に決めておきます。常時10人以上の事業場で手当を新しく設けるなら、就業規則の賃金の定めも直します(同法第89条)。外部講師に払う場合との違いは講師謝金と源泉徴収にまとめています。
社内講師が教える研修にも、助成金が使える場合がある
人材開発支援助成金の人材育成支援コースでは、社内で企画した研修(事業内訓練)も、職務に関連する10時間以上のOFF-JTなどの条件を満たせば対象になりえます。社内講師(部内講師)が教える場合は、講師の出勤簿やタイムカードの写しを出します。計画届は訓練開始日の6か月前から1か月前までに労働局へ出すとされています。なお、対象となる経費の一覧に挙がっているのは部外講師への謝金・手当で、社内講師に払う手当を経費として計上する形にはなっていません。使えるかどうかは、計画を立てる前に労働局で確かめてください。社内で作った資料の権利の扱いは社内研修と著作権で扱っています。
よくある質問
- Q. 社内講師には、その分野でいちばん詳しい人を選ぶべきですか?
- 必ずしもそうではありません。詳しすぎる人は、初めて聞く人が何につまずくかを忘れていることがあります。2、3年前に覚えた人のほうが、つまずく場所を覚えているぶん説明が届きやすくなります。内容の正しさはベテランが監修する形にすると、両方の強みが活きます。
- Q. 社内研修の準備には、どのくらい時間を見ておけばよいですか?
- 最初の仮の目安として、30分の朝礼教育で1から2時間、2時間の座学で1日程度、半日の実技で2日程度を置いておくと計画が立てやすくなります。調査に基づく数字ではないため、実際にかかった時間を記録して自社の数字に置き換えてください。同じ内容の2回目以降は、資料が残っていれば大きく減ります。この時間を業務として確保することが、社内講師が続く条件になります。
- Q. 社内講師に手当を出すべきですか?
- 手当より先に、準備を業務時間として認めることをおすすめします。手当があっても通常業務が減らなければ、負担は変わりません。手当を出す場合、その手当は賃金に当たり(労働基準法第11条)、給与として源泉徴収の対象になります。割増賃金の計算の基礎に入ることもあるので、給与担当と扱いを決めてから始めてください。
- Q. 社内講師と外部講師は、どう使い分けますか?
- 自社の設備、製品、手順そのものを教える内容は社内講師のほうが向いています。法令や規格の解説、他社の事例といった一般的な内容は外部のほうが早く確実です。役割を分けておくと、どちらにも頼みやすくなります。
- Q. 教える技術を身につけるには、講師養成の研修が必要ですか?
- 必須ではありません。最初に全体像を見せる、説明のあとにその場でやらせてみる、質問の時間を最後にまとめず区切りごとに置く。この3点を伝えるだけでも、社内研修の質はかなり上がります。
- Q. 社内講師の実績は、どう記録すればよいですか?
- 実施日、内容、受講者に加えて、準備にかかった時間と当日の時間まで残してください。手間の欄が抜けると、社内講師が無料の労力に見えてしまいます。年間で集計すると相当な時間になり、評価の材料や外部委託との比較にも使えます。
- Q. 社内研修の内容は、どのくらいの量にすべきですか?
- 1回で覚えきれる量には限りがあるため、要点を3つ程度に絞って繰り返すことをおすすめします。時間を超えると受講者は次の作業が気になって聞いていないため、内容を減らしてでも時間内に終えてください。入り切らない分は次回に回すほうが、結果として残るものは多くなります。
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