社内講師の育成|教える側の負担を見える形にする
社内で研修をやろうという話になり、詳しい人に講師を頼む。引き受けた人は、通常業務の合間に資料を作り、当日を迎える。準備にかかった時間は、どこにも残りません。
一般には、社内講師とは、社員が講師役となって社内の研修を行うことを指します。外部に頼むより費用が抑えられ、自社の実物で教えられる利点があります。続かなくなる理由はほぼ1つで、教える側の負担が見えず、頼まれた人が損をする形になっていることです。この記事では、社内講師の育成を、人選、準備、記録、評価の順に整理します。
この記事の内容(8項目)
- 社内講師には、外部に無い強みがある
- 自社の実物で教えられる作業は、社内でやる
- 教える側の理解も深まる
- 外部に頼むときは、記録の形をそろえる
- 講師は、いちばん詳しい人でなくてよい
- ベテランと若手を組ませる
- 頼む前に、断れる形にする
- 1人に集中させない
- 準備の時間を、先に見積もって業務にする
- 2回目からは、大きく減る
- 実際にかかった時間を記録する
- 資料は、使い回せる形にする
- 実施した記録を残して、実績にする
- 年間の実績として集計する
- 受講者の反応も残す
- 受講の記録は、研修管理表に落とす
- 教える技術は、3つだけ伝えれば足りる
- 説明の順番は、手順書のとおりでよい
- 時間を守る
- 1回で全部を教えようとしない
- 社内講師が続かなくなるときの直し方
- 手当を出すかは、あとの話
- やめる判断も持つ
- 外部に切り替える判断もある
- 社内講師を、次の指導者につなげる
- 教えられる人の数を、数えておく
- 指導者の割り当てに使う
- 本人の評価にも反映する
- よくある質問
社内講師には、外部に無い強みがある
費用が安いことだけが理由だと、頼まれる側は納得しません。社内講師でなければできないことを先に押さえます。
| 社内講師 | 外部講師 | |
|---|---|---|
| 教えられること | 自社の設備・製品・手順そのもの | 一般的な考え方、他社の事例 |
| 質問への答え | 「うちの場合は」に答えられる | 一般論までになりやすい |
| 研修のあと | 職場で続けて見てもらえる | 当日で終わる |
| 費用 | 人件費のみ | 謝金、旅費、教材費 |
自社の実物で教えられる作業は、社内でやる
設備の操作、製品の検査、社内の手続きは、外部には教えられません。逆に、法令や規格の解説、他社の事例は外部のほうが早いと割り切ります。役割を分けると、どちらにも頼みやすくなります。
教える側の理解も深まる
人に説明すると、自分の理解の穴が見えます。社内講師は、講師本人にとっての育成にもなります。次の指導者を育てる場としても使えます。
外部に頼むときは、記録の形をそろえる
社内と外部で記録の形が違うと、年間の実績を集計できません。どちらも同じ研修管理表に落とすと、比較ができます。外部の手配は別の表で追います。
講師は、いちばん詳しい人でなくてよい
その分野でいちばん詳しい人が、いちばん教えるのが上手とは限りません。詳しすぎる人は、初めて聞く人が何につまずくかを忘れています。
詳しさで選ぶ
20年やっているベテラン知識は確かだが、
説明が細かくなりすぎる。
受講者が付いてこられない。
近さで選ぶ
2、3年前に覚えた人つまずいた場所を覚えている。
説明が受講者の目線に近い。
ベテランは監修に回る。
ベテランと若手を組ませる
内容の正しさはベテランが見て、説明は若手が行う。2人1組にすると、どちらの弱点も補えます。若手にとっては、教える側の練習にもなります。
頼む前に、断れる形にする
断りにくい形で頼むと、引き受けたあとの準備が雑になります。何時間くらいかかるか、業務としてどう扱うかを先に示してから頼むと、返事が正直になります。
1人に集中させない
話がうまい人に毎回頼むと、その人の負担だけが増えます。年間で誰が何回やったかを数えておくと、偏りに気づけます。
準備の時間を、先に見積もって業務にする
社内講師がいちばん消耗するのは、当日ではなく準備です。準備にかかる時間を先に見積もり、業務時間として確保します。
| 研修の形 | 準備の目安 | 内訳 |
|---|---|---|
| 30分の朝礼教育 | 1から2時間 | 要点の整理、配る紙1枚 |
| 2時間の座学 | 1日程度 | 資料作り、進め方の組み立て |
| 半日の実技 | 2日程度 | 材料の準備、練習用の設備確保 |
| 2回目以降(同じ内容) | 1時間から半日 | 前回の資料の手直しのみ |
2回目からは、大きく減る
資料が残っていれば、2回目以降の準備は大幅に軽くなります。1回目の負担を業務として認めておくことが、続く条件になります。資料を個人の手元に残さず、教材の一覧に載せます。
実際にかかった時間を記録する
見積りと実績がずれていても、記録がなければ直せません。実際にかかった準備時間を残すと、次に頼むときの見積りが正確になります。
資料は、使い回せる形にする
その回限りの資料を作ると、毎回ゼロから作ることになります。手順書や既存の教材を土台にして、足りない部分だけを作ると、準備が軽くなり、内容も現場と合います。
実施した記録を残して、実績にする
社内講師は、記録が残らないと「やって当たり前」になります。誰が、何を、何人に、どれだけの時間で教えたかを残します。
年間の実績として集計する
1回ずつでは小さく見えても、年間で数えると相当な時間になります。集計しておくと、講師役の評価や、外部委託との比較に使えます。同じ内容を外部に頼んだ場合の費用と並べると、社内でやっている価値も見えます。
受講者の反応も残す
アンケートの結果を講師本人に返さないと、次に何を直せばよいか分かりません。点数だけでなく、自由記述をそのまま渡すと改善につながります。効果の見方は研修の効果測定で扱っています。
受講の記録は、研修管理表に落とす
社内研修も、誰が受けたかを追う必要があります。実施の記録は講師側、受講の記録は人ごとの一覧と分けます。運用は研修管理の方法にまとめています。
教える技術は、3つだけ伝えれば足りる
講師養成の講座に出さなくても、要点を3つ伝えるだけで、社内研修の質はかなり上がります。
| 伝えること | 具体的にどうするか | 効き方 |
|---|---|---|
| 先に全体像を見せる | 「今日は3つ話します」と最初に言う | 受講者が迷子にならない |
| やらせてみる | 説明のあと、その場で1回やらせる | 分かったつもりが減る |
| 質問の時間を最後に置かない | 区切りごとに「ここまでで」と聞く | 最後だと誰も手を挙げない |
説明の順番は、手順書のとおりでよい
研修用に順番を組み直すと、現場に戻ったときに手順書と合いません。手順書と同じ順番で教えるほうが、あとで自分で確認できます。
時間を守る
予定を超えると、受講者は次の作業が気になって聞いていません。内容を減らしてでも時間内に終えるほうが、残るものは多くなります。入り切らない分は次回に回します。
1回で全部を教えようとしない
1回の研修で伝わるのは、多くて3点です。要点を3つに絞って、それを繰り返すほうが定着します。詰め込むほど、何も残りません。
社内講師が続かなくなるときの直し方
1年やってみて立ち消えになる。よくある流れです。
| 症状 | よくある原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 頼んでも断られる | 準備が業務として扱われていない | 準備時間を見積もって業務に入れる |
| 同じ人ばかりやっている | 実施回数を数えていない | 年間の実績を集計して割り振る |
| 内容が毎回ゼロから | 資料が個人の手元にある | 教材の一覧に載せて共有する |
| 受講者の評判が悪い | 反応が講師に返っていない | アンケートを本人に渡す |
| やって当たり前になっている | 手間が記録されていない | 準備時間まで記録に残す |
手当を出すかは、あとの話
金銭的な手当より、まず準備を業務時間として認めることのほうが効きます。手当があっても、通常業務が減らなければ負担は変わりません。
やめる判断も持つ
受講者に必要とされていない研修を、講師の努力で続けても意味がありません。年に1回、続けるかどうかを内容ごとに判断します。やめれば、講師の時間が空きます。
外部に切り替える判断もある
社内で教えるのが難しい内容を無理に抱えると、質が下がります。法令や規格の解説など、外部のほうが早いものは頼むと決めておくと、社内講師の負担が減ります。
社内講師を、次の指導者につなげる
講師を経験した人は、日常の指導でも教え方が変わります。研修の場だけで終わらせず、育成の役割につなげます。
| 段階 | やること | 次につながること |
|---|---|---|
| 1回目 | ベテランと組んで、説明の部分を担当 | 教えることに慣れる |
| 2、3回目 | 同じ内容を1人で担当 | 資料と進め方が固まる |
| その後 | OJTの指導者を担当 | 日常の育成が回るようになる |
教えられる人の数を、数えておく
スキルマップで、教えられる段階に達している人が何人いるかを見ます。この人数がゼロの作業は、育成が止まる作業です。増やす対象になります。
指導者の割り当てに使う
社内講師の実績は、OJTの指導者を誰にするかの材料になります。教えた経験がある人を優先して割り当てると、指導の質が安定します。割り当て方はOJT計画の作り方で扱っています。
本人の評価にも反映する
教えることを引き受けた事実が、どこにも反映されないと続きません。年間の実績を、評価や面談の材料として使うと、引き受ける理由ができます。
よくある質問
- Q. 社内講師には、その分野でいちばん詳しい人を選ぶべきですか?
- 必ずしもそうではありません。詳しすぎる人は、初めて聞く人が何につまずくかを忘れていることがあります。2、3年前に覚えた人のほうが、つまずく場所を覚えているぶん説明が届きやすくなります。内容の正しさはベテランが監修する形にすると、両方の強みが活きます。
- Q. 社内研修の準備には、どのくらい時間を見ておけばよいですか?
- 30分の朝礼教育で1から2時間、2時間の座学で1日程度、半日の実技で2日程度が目安です。同じ内容の2回目以降は、資料が残っていれば1時間から半日まで下がります。この時間を業務として確保することが、社内講師が続く条件になります。
- Q. 社内講師に手当を出すべきですか?
- 手当より先に、準備を業務時間として認めることをおすすめします。手当があっても通常業務が減らなければ、負担は変わりません。まず準備時間を見積もって業務に入れ、実際にかかった時間を記録に残すところから始めてください。
- Q. 社内講師と外部講師は、どう使い分けますか?
- 自社の設備、製品、手順そのものを教える内容は社内講師のほうが向いています。法令や規格の解説、他社の事例といった一般的な内容は外部のほうが早く確実です。役割を分けておくと、どちらにも頼みやすくなります。
- Q. 教える技術を身につけるには、講師養成の研修が必要ですか?
- 必須ではありません。最初に全体像を見せる、説明のあとにその場でやらせてみる、質問の時間を最後にまとめず区切りごとに置く。この3点を伝えるだけでも、社内研修の質はかなり上がります。
- Q. 社内講師の実績は、どう記録すればよいですか?
- 実施日、内容、受講者に加えて、準備にかかった時間と当日の時間まで残してください。手間の欄が抜けると、社内講師が無料の労力に見えてしまいます。年間で集計すると相当な時間になり、評価の材料や外部委託との比較にも使えます。
- Q. 社内研修の内容は、どのくらいの量にすべきですか?
- 1回で伝わるのは、多くて3点です。要点を3つに絞って繰り返すほうが定着します。時間を超えると受講者は次の作業が気になって聞いていないため、内容を減らしてでも時間内に終えてください。入り切らない分は次回に回すほうが、結果として残るものは多くなります。
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