ハラスメント研修は義務か|法律が求める措置と研修の位置づけ、実施記録の残し方
「ハラスメント研修は義務化されたのか」という質問は、毎年のように出てきます。2022年4月に、パワハラ防止の措置が中小企業にも広がったころからです。2026年10月にはカスタマーハラスメントの措置が加わりました。改めて調べている担当者も多いはずです。
答えを先に書きます。法律が義務にしているのは研修そのものではなく、方針の周知や相談体制などの「措置」です。研修は、その措置を果たしていると認められる代表的な手段です。
この記事では、ハラスメント研修と義務の関係を条文で整理します。研修をしたことを示せる記録の残し方までをまとめます。
この記事の内容(9項目)
- ハラスメント研修の義務は「措置」の中にある
- 研修は「認められる例」
- ハラスメント研修について法律が書いている努力義務
- 2026年10月に条番号が変わった
- ハラスメント研修の義務化はいつから、どこまで
- 人数による除外は無い
- ハラスメント研修の頻度と、誰に何を伝えるか
- 年1回の全体研修と、入社時の説明を組み合わせる
- 管理職研修は「線引き」を具体例で
- ハラスメント研修の実施記録は、受講者1人1行で残す
- 欠席者と途中入社の人を、ハラスメント研修から漏らさない
- 欠席者には、その場で後日の日程を決める
- 途中入社とパート・アルバイト
- 休職・育休から戻った人
- ハラスメント研修の記録に書かないこと
- 研修で事例を扱うときも匿名にする
- ハラスメント研修の義務にまつわる用語
- よくある質問
ハラスメント研修の義務は「措置」の中にある
職場のハラスメントについて、事業主には雇用管理上の措置が義務づけられています。雇用管理上の措置とは、会社が人を雇う側として取る対策のことです。相談に応じて適切に対応するための体制づくりが、その代表です。
根拠の条文は、ハラスメントの種類ごとに分かれています。パワハラは労働施策総合推進法31条、セクハラは男女雇用機会均等法(均等法)11条です。妊娠・出産等は均等法15条、育児・介護休業等は育児・介護休業法25条です。
何をすればその措置になるかは、厚生労働省の指針が具体的に決めています。指針とは、法律の中身を細かく示した厚生労働大臣の告示です。パワハラ防止指針では、次の4つの柱が「講じなければならない」措置です。
研修は「認められる例」
指針は、方針を周知・啓発していると認められる例を挙げています。就業規則への規定や、社内報・パンフレットへの掲載です。それと並んで、「研修、講習等を実施すること」が出てきます(4(1)イ)。研修をしなくても、他の方法で周知できていれば措置は果たせます。ただ、全員に確実に伝わったことを示しやすいのは研修です。
ハラスメント研修について法律が書いている努力義務
措置とは別に、各法律には事業主の「責務」の条文があります。そこで研修が名指しされています。
たとえばパワハラでは、措置の31条のすぐ後の32条2項です。事業主は、研修の実施その他の必要な配慮をするよう努めなければならない、と書かれています。目的は、労働者の関心と理解を深め、ほかの労働者への言動に注意を払ってもらうことです。
| 種類 | 措置の義務 | 研修が出てくる責務の条文 |
|---|---|---|
| パワハラ | 労働施策総合推進法 31条 | 32条2項 |
| セクハラ | 男女雇用機会均等法 11条 | 12条2項 |
| 妊娠・出産等 | 男女雇用機会均等法 15条 | 16条2項 |
| 育児・介護休業等 | 育児・介護休業法 25条 | 25条の2 第2項 |
| カスタマーハラスメント | 労働施策総合推進法 33条 | 34条2項 |
| 求職者等へのセクハラ | 男女雇用機会均等法 13条 | 14条2項 |
つまり、ハラスメント研修は「義務ではないからやらなくてよい」ものでもありません。措置の手段として指針に例が挙がり、責務の条文で努力義務になっている。これが正確な位置づけです。努力義務とは、「努めなければならない」と書かれた義務のことです。
2026年10月に条番号が変わった
2026年10月1日施行の改正で、条番号が変わりました。パワハラの措置義務は30条の2から31条へ、均等法の妊娠・出産等は11条の3から15条へ移っています。古い資料の条番号をそのまま研修資料に使っている場合は、直しておきましょう。
ハラスメント研修の義務化はいつから、どこまで
「義務化」という言葉が指しているのは、措置の義務が広がった時期です。研修を探している担当者が押さえておきたい節目は、次の3つです。
| 時期 | 何が義務になったか | 研修への影響 |
|---|---|---|
| 2020年6月1日 | 大企業でパワハラ防止の措置が義務に | パワハラを扱う研修が広がった |
| 2022年4月1日 | 中小企業でもパワハラ防止の措置が義務に | 規模を問わず、全員への周知が必要に |
| 2026年10月1日 | カスタマーハラスメントと、求職者等へのセクハラの防止措置が義務に | 接客の現場と、採用担当・面接官への研修が加わる |
2026年10月の改正では、「求職者等」へのセクハラも対象になりました。求職者等には、インターンシップの参加者や、教育実習・看護実習を受ける人も含まれます。採用面接やインターンを受け持つ社員にも、ルールを伝える研修が要るということです。採用の場面のハラスメントは採用板でも扱っています。
人数による除外は無い
措置の義務は、雇っている人数に関係なくかかります。パートやアルバイトだけの事業所も対象です。研修を年1回の全体研修だけにしていると、途中で入った人に伝わりません。入社時の説明を組み合わせます。
ハラスメント研修の頻度と、誰に何を伝えるか
研修の回数を決めた条文はありません。大切なのは、管理監督者を含む全員に伝わっていることです。もう1つは、相手の立場によって伝える中身を変えることです。
全員に伝えること
- 何がハラスメントに当たるか
- 会社の方針と、行為者への対処
- 相談窓口の連絡先
- 相談しても不利益に扱われないこと
立場ごとに足すこと
- 管理職:指導とパワハラの線引き
- 相談窓口担当者:相談を受けたときの対応
- 採用担当・面接官:求職者への言動
- 接客担当:カスハラの対処の手順
年1回の全体研修と、入社時の説明を組み合わせる
多くの会社は、年1回の全体研修を軸にしています。そこに、入社時の個別説明、管理職研修、窓口担当者の研修を足す形です。事案が起きたあとは、再発防止として研修・講習等を改めて行います。指針もこれを例に挙げています(4(3)ニ)。
管理職研修は「線引き」を具体例で
指針は、パワハラに当たらない例も挙げています。ルールを欠いた言動が改善されない人に、一定程度強く注意することです。管理職には、指導として必要な範囲と、それを超える言動を具体例で並べて示すと伝わります。面談での伝え方は評価面談の進め方でも扱っています。
ハラスメント研修の実施記録は、受講者1人1行で残す
研修の記録に保存義務はありません。それでも残しておくべきです。措置を講じていることを後から示せるのは、記録だけだからです。
労働局は、措置の状況について報告を求めることができます。報告をしない・偽った場合は20万円以下の過料です(労働施策総合推進法45条・51条)。過料とは、刑罰ではない、行政上のお金の制裁です。
記録は、研修1回につき1枚の出席簿ではなく、受講者1人1行で持つのがおすすめです。欠席した人の後日受講まで、同じ行で追えるからです。
| 列 | 書くこと | 残す理由 |
|---|---|---|
| 種類 | パワハラ/セクハラ/カスハラ/総合 など | 2026年10月以降に足りない種類が分かる |
| 対象 | 全員/管理職/窓口担当者/入社時 | 立場ごとの研修が抜けていないか分かる |
| 方針の説明 | 説明済/未説明 | 措置の1つ目を果たした証拠になる |
| 相談窓口の周知 | 周知済/未周知 | 措置の2つ目そのもの |
| 受講の状況 | 受講済/欠席(後日受講)/未受講 | 全員に伝わったかが分かる |
表は役割で分けると重くなりません。研修全体の管理(日程・講師・費用)は研修管理表で、受講者ごとの記録はこの実施記録で持ちます。研修の管理全体は研修管理の方法にまとめています。
欠席者と途中入社の人を、ハラスメント研修から漏らさない
全体研修の出席率が9割でも、残りの1割に伝わっていなければ「全員に周知した」とは言えません。漏れが出るのは、だいたい次の3つの場面です。
欠席者には、その場で後日の日程を決める
欠席の連絡を受けた時点で、録画の視聴や個別説明の日を決めて記録に書きます。「あとで案内します」で終わらせると、そのまま年度が終わります。研修の欠席者の扱いは研修の欠席者フォローにまとめています。
途中入社とパート・アルバイト
年1回の研修のあとに入った人は、次の研修まで1年近く空きます。入社時の説明で、方針と相談窓口の連絡先だけは必ず伝えます。実施記録には「入社時」の行を足します。
休職・育休から戻った人
休んでいる間に研修があった人も漏れやすいところです。復職の手続きの中に、その年度の研修資料を渡して説明する手順を入れておくと、自然に拾えます。
理解度の確認テストをしている場合は、不合格だった人を放置しないことも大切です。資料を渡して終わりにはしません。上司か人事が説明し直し、その日付を備考に残します。
ハラスメント研修の記録に書かないこと
研修の実施記録は、多くの人が見る表です。相談の中身や事案の経過は、別の場所で管理します。指針は、相談者・行為者等のプライバシーを守るために必要な措置を求めています。守っていることを周知することも求めています。
ここでいうプライバシーには、機微な個人情報(=知られると差別や不利益につながりやすい情報)も含まれます。性的指向・ジェンダーアイデンティティ、病歴、不妊治療等がその例です。
研修の実施記録に書く
- 研修の日時・種類・対象
- 受講者と受講の状況
- 方針の説明と窓口の周知
- 理解度の確認の結果
書かない(別に管理する)
- 相談の内容や相談者の名前
- 事案の調査の経過
- 行為者への処分
- 健康や家庭の事情
研修で事例を扱うときも匿名にする
社内で起きた事例を研修の題材にすると、身近で伝わりやすくなります。その場合も、誰の話か分からない形に書き換え、本人の了解なく使わないようにします。
ハラスメント研修の義務にまつわる用語
ハラスメント研修を調べると、似た言葉が多く出てきます。法令の言葉を中心に並べます。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 雇用管理上の措置 | 方針の周知、相談体制、事後の対応など、事業主が講じなければならないこと | 労働施策総合推進法31条ほか |
| 指針 | 措置の具体的な中身と、措置をしていると認められる例を定めた厚生労働大臣の告示 | パワハラ防止指針(令和2年告示第5号)ほか |
| 責務(努力義務) | 研修の実施その他の配慮をするよう努める義務 | 労働施策総合推進法32条2項ほか |
| 求職者等 | 応募者のほか、インターンシップの参加者や教育実習・看護実習を受ける人など | 男女雇用機会均等法13条 |
| 公表 | 措置義務に違反し、勧告に従わない事業主の名前を公表すること | 労働施策総合推進法42条2項 |
出典の法令は、労働施策総合推進法(e-Gov法令検索)と男女雇用機会均等法(e-Gov法令検索)です。育児・介護は育児・介護休業法(e-Gov法令検索)を見ています。
指針はパワーハラスメント防止指針(令和2年 厚生労働省告示第5号、令和8年10月1日適用版)です。案内のページは、厚生労働省 令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されますと厚生労働省 職場におけるハラスメントの防止のためにです。確認日は2026年10月10日です。自社の措置の範囲は、所轄の都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)で確認してください。
よくある質問
- Q. ハラスメント研修を1回もしていないと違法ですか?
- 研修をしていないことだけで直ちに違法になる条文はありません。ただし、方針の周知、相談窓口の設置と周知などの措置は義務です。研修以外の方法でそれらを果たしているか、確かめてください。
- Q. ハラスメント研修の義務化に罰則はありますか?
- 措置義務に違反し、勧告に従わないと企業名が公表されることがあります。措置の状況について報告を求められ、報告をしない・虚偽の報告をした場合は20万円以下の過料です。研修そのものに罰則はありません。
- Q. eラーニングだけでハラスメント研修をしてもよいですか?
- 形式の決まりはありません。eラーニングの場合は、受講したことと理解したことを確かめる仕組み(確認テストなど)を用意し、受講の記録を1人ずつ残すと、周知したことを示しやすくなります。
- Q. 役員も研修を受けるべきですか?
- 各法律は、事業主(法人の場合は役員)自らも問題への関心と理解を深め、言動に注意を払うよう努めることを定めています。役員を研修の対象に入れ、記録にも行を作っておくことをおすすめします。
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