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ハラスメント研修は義務か|法律が求める措置と研修の位置づけ、実施記録の残し方

公開 2026-10-19 執筆 育成板 編集部
育成板 編集部法令の原文と省庁の資料で確認:2026年10月19日

「ハラスメント研修は義務化されたのか」という質問は、毎年のように出てきます。2022年4月に、パワハラ防止の措置が中小企業にも広がったころからです。2026年10月にはカスタマーハラスメントの措置が加わりました。改めて調べている担当者も多いはずです。

答えを先に書きます。法律が義務にしているのは研修そのものではなく、方針の周知や相談体制などの「措置」です。研修は、その措置を果たしていると認められる代表的な手段です。

この記事では、ハラスメント研修と義務の関係を条文で整理します。研修をしたことを示せる記録の残し方までをまとめます。

ハラスメント防止研修 実施記録(Excel・無料)ハラスメント防止の研修を、いつ・誰に・どの種類で行い、方針と相談窓口を伝えたかを受講者ごとに残します。登録不要でダウンロードできます。
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この記事の内容(9項目)

ハラスメント研修の義務は「措置」の中にある

職場のハラスメントについて、事業主には雇用管理上の措置が義務づけられています。雇用管理上の措置とは、会社が人を雇う側として取る対策のことです。相談に応じて適切に対応するための体制づくりが、その代表です。

根拠の条文は、ハラスメントの種類ごとに分かれています。パワハラは労働施策総合推進法31条、セクハラは男女雇用機会均等法(均等法)11条です。妊娠・出産等は均等法15条、育児・介護休業等は育児・介護休業法25条です。

何をすればその措置になるかは、厚生労働省の指針が具体的に決めています。指針とは、法律の中身を細かく示した厚生労働大臣の告示です。パワハラ防止指針では、次の4つの柱が「講じなければならない」措置です。

パワハラ防止指針の4つの柱
方針の明確化と周知行ってはならない旨と、厳正に対処する旨
›
相談体制窓口を決めて周知し、担当者が対応できるようにする
›
事後の対応事実確認・被害者への配慮・行為者への措置・再発防止
›
併せて講ずる措置プライバシー保護と、不利益な取扱いをしない旨の周知
図:義務になっているのはこの4つの措置。研修は1つ目と2つ目の中に例として出てくる

研修は「認められる例」

指針は、方針を周知・啓発していると認められる例を挙げています。就業規則への規定や、社内報・パンフレットへの掲載です。それと並んで、「研修、講習等を実施すること」が出てきます(4(1)イ)。研修をしなくても、他の方法で周知できていれば措置は果たせます。ただ、全員に確実に伝わったことを示しやすいのは研修です。

ハラスメント研修について法律が書いている努力義務

措置とは別に、各法律には事業主の「責務」の条文があります。そこで研修が名指しされています。

たとえばパワハラでは、措置の31条のすぐ後の32条2項です。事業主は、研修の実施その他の必要な配慮をするよう努めなければならない、と書かれています。目的は、労働者の関心と理解を深め、ほかの労働者への言動に注意を払ってもらうことです。

措置の義務と、研修の努力義務
種類措置の義務研修が出てくる責務の条文
パワハラ労働施策総合推進法 31条32条2項
セクハラ男女雇用機会均等法 11条12条2項
妊娠・出産等男女雇用機会均等法 15条16条2項
育児・介護休業等育児・介護休業法 25条25条の2 第2項
カスタマーハラスメント労働施策総合推進法 33条34条2項
求職者等へのセクハラ男女雇用機会均等法 13条14条2項
図:6種類とも、措置は義務、研修は「努めなければならない」の形

つまり、ハラスメント研修は「義務ではないからやらなくてよい」ものでもありません。措置の手段として指針に例が挙がり、責務の条文で努力義務になっている。これが正確な位置づけです。努力義務とは、「努めなければならない」と書かれた義務のことです。

2026年10月に条番号が変わった

2026年10月1日施行の改正で、条番号が変わりました。パワハラの措置義務は30条の2から31条へ、均等法の妊娠・出産等は11条の3から15条へ移っています。古い資料の条番号をそのまま研修資料に使っている場合は、直しておきましょう。

ハラスメント研修の義務化はいつから、どこまで

「義務化」という言葉が指しているのは、措置の義務が広がった時期です。研修を探している担当者が押さえておきたい節目は、次の3つです。

ハラスメントの措置が広がった節目
時期何が義務になったか研修への影響
2020年6月1日大企業でパワハラ防止の措置が義務にパワハラを扱う研修が広がった
2022年4月1日中小企業でもパワハラ防止の措置が義務に規模を問わず、全員への周知が必要に
2026年10月1日カスタマーハラスメントと、求職者等へのセクハラの防止措置が義務に接客の現場と、採用担当・面接官への研修が加わる
図:2022年4月で規模の区別が無くなり、2026年10月で対象の種類が増えた

2026年10月の改正では、「求職者等」へのセクハラも対象になりました。求職者等には、インターンシップの参加者や、教育実習・看護実習を受ける人も含まれます。採用面接やインターンを受け持つ社員にも、ルールを伝える研修が要るということです。採用の場面のハラスメントは採用板でも扱っています。

人数による除外は無い

措置の義務は、雇っている人数に関係なくかかります。パートやアルバイトだけの事業所も対象です。研修を年1回の全体研修だけにしていると、途中で入った人に伝わりません。入社時の説明を組み合わせます。

ハラスメント研修の頻度と、誰に何を伝えるか

研修の回数を決めた条文はありません。大切なのは、管理監督者を含む全員に伝わっていることです。もう1つは、相手の立場によって伝える中身を変えることです。

研修で伝える中身

全員に伝えること

  • 何がハラスメントに当たるか
  • 会社の方針と、行為者への対処
  • 相談窓口の連絡先
  • 相談しても不利益に扱われないこと

立場ごとに足すこと

  • 管理職:指導とパワハラの線引き
  • 相談窓口担当者:相談を受けたときの対応
  • 採用担当・面接官:求職者への言動
  • 接客担当:カスハラの対処の手順
図:全員向けの共通部分に、立場ごとの中身を足す

年1回の全体研修と、入社時の説明を組み合わせる

多くの会社は、年1回の全体研修を軸にしています。そこに、入社時の個別説明、管理職研修、窓口担当者の研修を足す形です。事案が起きたあとは、再発防止として研修・講習等を改めて行います。指針もこれを例に挙げています(4(3)ニ)。

管理職研修は「線引き」を具体例で

指針は、パワハラに当たらない例も挙げています。ルールを欠いた言動が改善されない人に、一定程度強く注意することです。管理職には、指導として必要な範囲と、それを超える言動を具体例で並べて示すと伝わります。面談での伝え方は評価面談の進め方でも扱っています。

ハラスメント研修の実施記録は、受講者1人1行で残す

研修の記録に保存義務はありません。それでも残しておくべきです。措置を講じていることを後から示せるのは、記録だけだからです。

労働局は、措置の状況について報告を求めることができます。報告をしない・偽った場合は20万円以下の過料です(労働施策総合推進法45条・51条)。過料とは、刑罰ではない、行政上のお金の制裁です。

記録は、研修1回につき1枚の出席簿ではなく、受講者1人1行で持つのがおすすめです。欠席した人の後日受講まで、同じ行で追えるからです。

実施記録に持たせる列
列書くこと残す理由
種類パワハラ/セクハラ/カスハラ/総合 など2026年10月以降に足りない種類が分かる
対象全員/管理職/窓口担当者/入社時立場ごとの研修が抜けていないか分かる
方針の説明説明済/未説明措置の1つ目を果たした証拠になる
相談窓口の周知周知済/未周知措置の2つ目そのもの
受講の状況受講済/欠席(後日受講)/未受講全員に伝わったかが分かる
図:出席だけでなく、方針と窓口を伝えたかまで1人ずつ残す

表は役割で分けると重くなりません。研修全体の管理(日程・講師・費用)は研修管理表で、受講者ごとの記録はこの実施記録で持ちます。研修の管理全体は研修管理の方法にまとめています。

欠席者と途中入社の人を、ハラスメント研修から漏らさない

全体研修の出席率が9割でも、残りの1割に伝わっていなければ「全員に周知した」とは言えません。漏れが出るのは、だいたい次の3つの場面です。

欠席者には、その場で後日の日程を決める

欠席の連絡を受けた時点で、録画の視聴や個別説明の日を決めて記録に書きます。「あとで案内します」で終わらせると、そのまま年度が終わります。研修の欠席者の扱いは研修の欠席者フォローにまとめています。

途中入社とパート・アルバイト

年1回の研修のあとに入った人は、次の研修まで1年近く空きます。入社時の説明で、方針と相談窓口の連絡先だけは必ず伝えます。実施記録には「入社時」の行を足します。

休職・育休から戻った人

休んでいる間に研修があった人も漏れやすいところです。復職の手続きの中に、その年度の研修資料を渡して説明する手順を入れておくと、自然に拾えます。

理解度の確認テストをしている場合は、不合格だった人を放置しないことも大切です。資料を渡して終わりにはしません。上司か人事が説明し直し、その日付を備考に残します。

研修後アンケート集計表(Excel・無料)研修のあとに集めた理解度・有用度・難易度と、自由記述をまとめたお手本です。1回の研修で8人ぶんを記入済みで、理解度は高いのに実務での有用度が低いという食い違いを残し、その読み方まで書いてあります。編集用の空欄ファイルも付いています。登録不要でダウンロードできます。
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ハラスメント研修の記録に書かないこと

研修の実施記録は、多くの人が見る表です。相談の中身や事案の経過は、別の場所で管理します。指針は、相談者・行為者等のプライバシーを守るために必要な措置を求めています。守っていることを周知することも求めています。

ここでいうプライバシーには、機微な個人情報(=知られると差別や不利益につながりやすい情報)も含まれます。性的指向・ジェンダーアイデンティティ、病歴、不妊治療等がその例です。

実施記録と相談記録を分ける

研修の実施記録に書く

  • 研修の日時・種類・対象
  • 受講者と受講の状況
  • 方針の説明と窓口の周知
  • 理解度の確認の結果

書かない(別に管理する)

  • 相談の内容や相談者の名前
  • 事案の調査の経過
  • 行為者への処分
  • 健康や家庭の事情
図:研修の記録は広く共有され、相談の記録は限られた人だけが見る

研修で事例を扱うときも匿名にする

社内で起きた事例を研修の題材にすると、身近で伝わりやすくなります。その場合も、誰の話か分からない形に書き換え、本人の了解なく使わないようにします。

ハラスメント研修の義務にまつわる用語

ハラスメント研修を調べると、似た言葉が多く出てきます。法令の言葉を中心に並べます。

よく出てくる用語
用語意味出典
雇用管理上の措置方針の周知、相談体制、事後の対応など、事業主が講じなければならないこと労働施策総合推進法31条ほか
指針措置の具体的な中身と、措置をしていると認められる例を定めた厚生労働大臣の告示パワハラ防止指針(令和2年告示第5号)ほか
責務(努力義務)研修の実施その他の配慮をするよう努める義務労働施策総合推進法32条2項ほか
求職者等応募者のほか、インターンシップの参加者や教育実習・看護実習を受ける人など男女雇用機会均等法13条
公表措置義務に違反し、勧告に従わない事業主の名前を公表すること労働施策総合推進法42条2項
図:義務は「措置」、研修は「指針の例」と「責務」に出てくる

出典の法令は、労働施策総合推進法(e-Gov法令検索)と男女雇用機会均等法(e-Gov法令検索)です。育児・介護は育児・介護休業法(e-Gov法令検索)を見ています。

指針はパワーハラスメント防止指針(令和2年 厚生労働省告示第5号、令和8年10月1日適用版)です。案内のページは、厚生労働省 令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されますと厚生労働省 職場におけるハラスメントの防止のためにです。確認日は2026年10月10日です。自社の措置の範囲は、所轄の都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)で確認してください。

育成板 編集部がまとめました様式を無料で配り、使い方と法令の決まりを記事にまとめています。法令の数字は e-Gov の原文で確かめてから載せています。

よくある質問

Q. ハラスメント研修を1回もしていないと違法ですか?
研修をしていないことだけで直ちに違法になる条文はありません。ただし、方針の周知、相談窓口の設置と周知などの措置は義務です。研修以外の方法でそれらを果たしているか、確かめてください。
Q. ハラスメント研修の義務化に罰則はありますか?
措置義務に違反し、勧告に従わないと企業名が公表されることがあります。措置の状況について報告を求められ、報告をしない・虚偽の報告をした場合は20万円以下の過料です。研修そのものに罰則はありません。
Q. eラーニングだけでハラスメント研修をしてもよいですか?
形式の決まりはありません。eラーニングの場合は、受講したことと理解したことを確かめる仕組み(確認テストなど)を用意し、受講の記録を1人ずつ残すと、周知したことを示しやすくなります。
Q. 役員も研修を受けるべきですか?
各法律は、事業主(法人の場合は役員)自らも問題への関心と理解を深め、言動に注意を払うよう努めることを定めています。役員を研修の対象に入れ、記録にも行を作っておくことをおすすめします。
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本記事は一般的な業務の進め方を整理したものです。社内規程、契約条件、法令上の要件がある場合は、それらを優先してご確認ください。記事の内容は2026-10-19時点のものです。