手順書の改訂と周知|直したことを全員に届かせる
手順書を直して、共有フォルダに新しい版を置いた。ところが1か月後、現場では前のやり方が続いている。掲示板には古い紙が貼ったままだった。改訂と周知が別々に扱われていると、こうなります。
手順書の改訂は、直すことより直したことを届かせるほうが難しい作業です。この記事では、手順書の改訂と周知を、改訂の判断、版の付け方、周知の届け方、古い版の回収の順に整理します。改訂の履歴を残す用紙は、テンプレートのページから無料でダウンロードできます。
設備そのものを入れ替えたときは、手順書を直すだけでは足りません。誰が触れるかを決めるところからの進め方は新設備の操作教育で扱っています。
この記事の内容(11項目)
- 改訂には、版を上げるものと上げないものがある
- 版を上げないときは、日付だけ更新する
- 版と日付を、両方書く
- ファイル名にも入れる
- 改訂の履歴は、本文と別に残す
- 理由の欄が、いちばん効く
- 不具合が理由なら、その番号を書く
- 再教育の要否を、この場で決める
- 周知は、朝礼だけで終わらせない
- 対象者を先に並べる
- 変わったところだけを伝える
- シフト勤務なら、全シフトに回す
- 周知した日を、履歴に書く
- 古い版を、必ず回収する
- 配った先を、記録しておく
- 旧版は、保管場所へ移す
- 電子の旧版も、同じ扱いにする
- 改訂の材料は、現場から拾う
- 3人が同じところで止まったら、直す
- 作業者からの申し出を、受ける場を作る
- 勝手に変わっている手順を見つける
- 改訂したあと、許可と教育を見直す
- 確認表を直さないと、古い基準で合格が出る
- 動画は、該当の1本だけ撮り直す
- 許可を見直すかどうかは、変更の大きさで決める
- 改訂が滞るときの直し方
- 1か所ずつ直す
- 承認する人と範囲を決める
- 直せる状態にしておく
- 直した実績を、年に1回数える
- 手順書の改訂と周知にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
- 手順書の改訂と周知に出てくる用語
- 手順書の改訂と周知と一緒に押さえておきたいこと
- 手順を変えるときは、危険性の洗い出しも一緒にやり直す
- 大きな改訂は、作業内容変更時の教育として記録しておく
- 手順書の改定と改訂、社内で言葉をそろえる
- よくある質問
改訂には、版を上げるものと上げないものがある
誤字の修正まで版を上げると、番号がすぐ大きくなり、重みが無くなります。作業のやり方が変わったときだけ版を上げます。
| 直す内容 | 版 | 周知 | 再教育 |
|---|---|---|---|
| 作業の手順が変わった | 上げる | 必要 | 必要 |
| 判定の基準が変わった | 上げる | 必要 | 必要 |
| 使う道具が変わった | 上げる | 必要 | 場合による |
| 表現を分かりやすくした | 上げない | 不要 | 不要 |
| 誤字を直した | 上げない | 不要 | 不要 |
版を上げないときは、日付だけ更新する
表現の手直しでも、いつのものかは分かるようにします。版はそのままで、改訂日だけ更新すると、履歴が追えます。
版と日付を、両方書く
版だけだといつのものか分からず、日付だけだと同じ日に2回直したときに区別できません。「第3版 2026-08-30」の形にすると、並べ替えも比較もできます。
ファイル名にも入れる
中身にだけ書くと、開かないと分かりません。ファイル名の末尾に版と日付を入れると、一覧で見た瞬間に判断できます。
改訂の履歴は、本文と別に残す
何をなぜ直したかを手順書の中に書き足すと、本文が読みにくくなります。履歴は別の表に残します。
| 履歴に残すこと | なぜ要るか |
|---|---|
| 改訂日と版 | いつのものか |
| 直した箇所 | どこが変わったか |
| 直した理由 | なぜ変えたかが分かる。元に戻すときの判断材料 |
| 再教育の要否 | 周知だけで足りるか、教え直しが要るか |
| 周知した日と対象者 | 全員に届いたかを確認できる |
理由の欄が、いちばん効く
数年後に「なぜこの手順なのか」と聞かれたとき、理由が残っていれば説明できます。残っていないと、意味の分からない手順として省略されます。
不具合が理由なら、その番号を書く
不具合や事故を受けて直したなら、その案件の番号を履歴に書いておくと、経緯がつながります。監査でも説明ができます。
再教育の要否を、この場で決める
改訂したあとで再教育を考えると、忘れます。履歴を書くときに、要否を判断して欄に入れると抜けません。判断のしかたは再教育の実施にまとめています。
周知は、朝礼だけで終わらせない
朝礼で伝えても、休んでいた人、別のシフトの人には届きません。名前で確認する形にします。
朝礼で伝える
「手順書を直したので確認して」その場にいない人に届かない。
聞いた人も、後で忘れる。
誰に届いたか分からない。
名前で確認する
対象者を並べて、伝えた人に印を付ける
届いていない人が見える。
次に会ったときに伝えられる。
対象者を先に並べる
その作業をする人が誰かは、スキルマップや単独作業の許可記録から出せます。対象者の一覧を作ってから周知を始めると、漏れが無くなります。
変わったところだけを伝える
「手順書を直したので読んでおいて」では読まれません。「3番目の確認が追加になりました」と変更点だけを伝えると、1分で済みます。
シフト勤務なら、全シフトに回す
日勤で伝えても、夜勤の人には届きません。シフトごとに伝える担当を決めるか、掲示と個別確認を組み合わせます。
周知した日を、履歴に書く
改訂日と周知日は別です。周知が完了した日を書いておくと、その間に古い手順で作業していた期間が分かります。
古い版を、必ず回収する
共有フォルダを更新しても、現場に貼ってある紙と、個人が持っているコピーは古いままです。回収まで含めて1件の改訂です。
配った先を、記録しておく
コピーを配ると、どこにあるか分からなくなります。配る場合は、配った先を記録すると回収できます。そもそも配らずに、1か所を見に行く形にできるとより確実です。
旧版は、保管場所へ移す
回収した紙をすべて捨てると、なぜ変えたかを追えなくなります。旧版を1部だけ保管場所に残すと、経緯が残ります。現場からは見えない場所に置きます。
電子の旧版も、同じ扱いにする
共有フォルダに旧版が並んでいると、間違って開かれます。旧版フォルダに移すだけで、事故が減ります。教材全体の置き方は教材の管理で扱っています。
改訂の材料は、現場から拾う
手順書を直す判断は、机の上では出てきません。実際に困っている場所から拾います。
| 出どころ | 拾えること |
|---|---|
| 新人からの質問 | 書かれていないこと、分かりにくい表現 |
| 指導記録 | 複数人が同じ手順で止まっている |
| 不具合の記録 | 手順どおりにやると不良が出る箇所 |
| 作業者の申し出 | やりにくい、時間がかかる箇所 |
3人が同じところで止まったら、直す
1人なら本人の理解の問題かもしれませんが、3人が同じ手順で止まっているなら、手順書のほうに原因があります。指導記録を横に読むと見つかります。
作業者からの申し出を、受ける場を作る
「この手順、やりにくいです」と言える場が無いと、現場は黙って自分のやり方に変えます。気づいたことを書き留める場所を作ると、改訂の材料が集まります。
勝手に変わっている手順を見つける
手順書と実際の作業がずれていることがあります。実際のやり方のほうが良ければ、手順書を直します。どちらが正しいかを決めて、そろえるところまでやります。
改訂したあと、許可と教育を見直す
手順が変わると、その手順を前提に出していた判断も変わります。3つを見直します。
| 見直すもの | 判断すること |
|---|---|
| 単独作業の許可 | 変わった手順を含めて、まだ任せてよいか |
| 作業習熟の確認表 | 判定項目を、新しい手順に合わせる |
| 教材・動画 | 古い手順が映っていないか |
確認表を直さないと、古い基準で合格が出る
手順書だけを直して確認表が古いままだと、新しい手順を教えていないのに合格を出すことになります。セットで直します。
動画は、該当の1本だけ撮り直す
動画を手順ごとに短く切っておけば、変わった1本だけを撮り直せます。1本20分の動画だと、全部を撮り直すことになります。
許可を見直すかどうかは、変更の大きさで決める
確認が1つ増えた程度なら周知で足りますが、作業の順序や道具が変わったなら、許可を出し直すほうが安全です。判断の条件は単独作業の許可にまとめています。
改訂が滞るときの直し方
直したほうがよいと分かっているのに、手が付かない。原因は決まっています。
| 症状 | よくある原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 誰も直さない | 担当が決まっていない | 作業ごとに担当を1人置く |
| 直しても現場に届かない | 周知が朝礼だけ | 名前で確認する形にする |
| 古い版が残っている | 回収していない | 改訂に回収を含める |
| 直すのに時間がかかる | 全面改訂しようとしている | 1か所ずつ直す |
| 承認が下りない | 承認の基準が無い | 誰が何を承認するか決める |
1か所ずつ直す
全面改訂は、着手までに時間がかかり、周知も重くなります。変えるところだけを直して、版を上げるほうが早く現場に届きます。
承認する人と範囲を決める
すべての改訂を管理者の承認にすると、滞ります。表現の手直しは担当者まで、手順の変更は責任者までと分けると回ります。
直せる状態にしておく
元のファイルが無い、編集できる人がいないという理由で止まっていることがあります。編集できるファイルを、複数人が扱える場所に置きます。
直した実績を、年に1回数える
1年間まったく改訂されていない手順書は、使われていないか、直す仕組みが動いていません。改訂の件数を数えるだけで、どちらかが分かります。
手順書の改訂と周知にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
手順書の改訂と周知のしかたを直接決めた法令はありません。ただ、2023年以降、「手順を定めて周知する」「手順を変えたら教育する」ことを求める条文が増えています。確かめられたものを日付順に並べます。
| 時期 | できごと | 根拠 |
|---|---|---|
| 2023年4月1日 | 化学物質のリスクアセスメントの結果と、それに基づく措置の内容の記録・保存と、取り扱う労働者への周知が義務になる。周知の方法は、作業場への掲示・備え付け、書面の交付、作業場で常に見られる機器を置いた電子での記録、と条文に書かれている | 安衛則34条の2の8、厚生労働省 |
| 2024年4月1日 | 雇入れ時等の教育で、一部の業種に認められていた項目の省略がなくなる。「作業手順に関すること」も全業種で教育の対象になった。作業内容を変更したときの教育も同じ項目による | 安衛法59条1項・2項、安衛則35条、厚生労働省 |
| 2025年6月1日 | 熱中症のおそれのある作業で、作業場ごとに、悪化を防ぐ措置の内容と実施の手順を定め、作業する人に周知することが義務になる | 安衛則612条の2第2項 |
| 2026年4月1日 | 改正労働安全衛生法の主な部分が施行。一人親方なども含む「作業従事者」に対する措置の考え方が広がり、熱中症の手順の周知の条文も「作業従事者」に対する書き方になっている | 令和7年法律第33号、安衛則612条の2 |
| 2026年9月16日 | 品質マネジメントシステムの規格 ISO 9001:2026 が発行。2015年版からの移行期限は2029年9月30日 | ISO/TC 176 |
ポイントはここです。手順を定めること、変えたら教えること、届いたことを残すことの3つは、すでに条文の言葉になっています。改訂履歴に周知した日と対象者を残しておくと、どの条文の場面でも同じ記録で説明できます。
出典:e-Gov法令検索(労働安全衛生法)、e-Gov法令検索(労働安全衛生規則)、厚生労働省 化学物質による労働災害防止のための新たな規制、厚生労働省 化学物質対策に関するQ&A(リスクアセスメント関係)、長野労働局 安全衛生教育のお知らせ(PDF)、厚生労働省 改正労働安全衛生法の概要(PDF)。確認日は2026年10月3日です。自社の作業に当てはまるかは、所轄の労働基準監督署にご確認ください。
手順書の改訂と周知に出てくる用語
手順書の改訂と周知では、似た言葉が混ざって使われます。法令や規格で決まっている言葉と、社内で決める言葉を分けて並べます。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 改訂 | 書かれた内容を改め直すこと。手順書や教材の中身を直すときに使うことが多い。法令上の定義はない | 一般的な用法 |
| 改定 | 決まりや料金などを改めて定め直すこと。規程や基準を定め直すときに使うことが多い。法令上の定義はない | 一般的な用法 |
| 版(版数) | 手順書のどの時点のものかを示す番号。ISO 9001 では文書化した情報の「変更の管理(例えば、版の管理)」が求められている | ISO 9001:2015 7.5.3.2 |
| 改訂履歴 | いつ、どこを、なぜ直したかの記録。法令上の様式はない。版・改訂日・箇所・理由・承認者・周知日を残すと追える | 社内の基準 |
| 周知 | 関係する人に知らせ、知り得る状態にすること。化学物質のリスクアセスメントの結果では、掲示・書面の交付・電子の記録と確認用の機器の設置、の方法が条文で示されている | 安衛則34条の2の8第2項 |
| 作業内容変更時の教育 | 労働者の作業内容を変更したときに行う安全衛生教育。項目に「作業手順に関すること」がある | 安衛法59条2項、安衛則35条1項3号 |
| 危険性又は有害性等の調査 | いわゆるリスクアセスメント。作業方法や作業手順を新しく採用したり変更したりするときに行うこととされている | 安衛法28条の2、安衛則24条の11第1項3号 |
手順書の改訂と周知と一緒に押さえておきたいこと
手順書の改訂と周知は、教育や安全の仕組みとつなげておくと、1回の改訂で済む範囲が広がります。上位の記事であまり扱われていない点を3つ挙げます。
手順を変えるときは、危険性の洗い出しも一緒にやり直す
労働安全衛生規則は、作業方法や作業手順を新しく採用し、または変更するときに、危険性又は有害性等の調査を行うこととしています(24条の11第1項3号)。製造業などでは努力義務で(安衛法28条の2)、化学物質を扱う作業の手順を変えるときのリスクアセスメントは義務です(安衛則34条の2の7第1項2号)。改訂履歴に「危険性の確認」の欄を1つ足しておくと、直すたびに思い出せます。
大きな改訂は、作業内容変更時の教育として記録しておく
作業の順序や道具が変わる改訂は、作業内容の変更にあたることがあります。作業内容を変更したときは、作業手順を含む安全衛生教育を行うことと定められています(安衛法59条2項、安衛則35条1項)。再教育の記録に「何版の改訂による教育か」を書いておくと、改訂履歴と教育の記録がつながります。
手順書の改定と改訂、社内で言葉をそろえる
「改定」と「改訂」が文書ごとに混ざっていると、検索しても旧版が見つからないことがあります。どちらが正しいということではなく、手順書は「改訂」、規程は「改定」のように社内で1つに決めておくと、ファイル名や履歴の検索がそろいます。改訂履歴の書き方も、版・改訂日・直した箇所・理由・承認者・周知日の列を決めておけば、誰が書いても同じ形になります。
よくある質問
- Q. 手順書を直したとき、必ず版を上げるべきですか?
- 作業のやり方が変わったとき、判定の基準が変わったとき、使う道具が変わったときは版を上げてください。表現を分かりやすくしただけ、誤字を直しただけの場合は版を上げず、改訂日だけ更新します。何でも版を上げると番号がすぐ大きくなり、版の重みが無くなります。
- Q. 改訂の履歴には、何を残せばよいですか?
- 改訂日と版、直した箇所、直した理由、再教育の要否、周知した日と対象者です。とくに理由の欄が効きます。数年後に「なぜこの手順なのか」と聞かれたとき、理由が残っていないと意味の分からない手順として省略されてしまいます。
- Q. 周知は朝礼で伝えれば十分ですか?
- 休んでいた人や別のシフトの人に届きません。その作業をする対象者を並べて、伝えた人に印を付ける形にしてください。あわせて「手順書を直したので読んでおいて」ではなく「3番目の確認が追加になりました」と変更点だけを伝えると、1分で済みます。
- Q. 古い版の手順書は、どう扱えばよいですか?
- 現場に貼ってある紙は回収して処分し、旧版を1部だけ保管場所に残してください。すべて捨てると、なぜ変えたかを追えなくなります。共有フォルダの旧版も、旧版フォルダへ移してください。並んでいると間違って開かれます。
- Q. 手順書を直す材料は、どこから拾えばよいですか?
- 新人からの質問、指導記録、不具合の記録、作業者からの申し出の4つです。1人が止まったなら本人の理解の問題かもしれませんが、3人が同じ手順で止まっているなら手順書のほうに原因があります。指導記録を横に読むと見つかります。
- Q. 手順書を改訂したら、他に見直すものはありますか?
- 3つあります。単独作業の許可、作業習熟の確認表、教材や動画です。とくに確認表を直さないと、新しい手順を教えていないのに古い基準で合格を出すことになります。許可を出し直すかどうかは、確認が1つ増えた程度なら周知で足り、作業の順序や道具が変わったなら出し直すほうが安全です。
- Q. 改訂したほうがよいと分かっているのに、手が付きません。
- 全面改訂しようとしていないか確認してください。変えるところだけを直して版を上げるほうが、早く現場に届き、周知も軽くて済みます。あわせて、作業ごとに担当を1人置くこと、表現の手直しは担当者まで、手順の変更は責任者までと承認の範囲を分けることで、滞りにくくなります。
- Q. 改訂されているかどうかを、どう点検すればよいですか?
- 年に1回、手順書ごとの改訂件数を数えてみてください。1年間まったく改訂されていない手順書は、使われていないか、直す仕組みが動いていないかのどちらかです。あわせて、元のファイルが無い、編集できる人がいないという理由で止まっていないかも確認してください。編集できるファイルを複数人が扱える場所に置いておくことが前提になります。
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