SESからFDEへ育成する方法|上流設計ができるようになる5ステップ
FDEとSESは、どちらも顧客の現場に入って働く点で似ています。そのため、SESの会社がFDE型の支援を始めたい、常駐のエンジニアをFDEに育てたい、という相談が増えています。
FDEはフォワードデプロイドエンジニアの略で、顧客の組織に入り込み、AIを本番の導入まで担うエンジニアです。SESはシステムエンジニアリングサービスの略で、エンジニアが顧客先に常駐して技術を提供する形を指します。
SESのエンジニアは、現場に入る経験をすでに持っています。足りないのは、作業を受ける側から、課題を決めて作る側に移るための「上流設計」の経験です。この記事では、業務の理解・要件定義・設計を順に身につける5ステップで、SESからFDEへの育成を整理します。
この記事の内容(9項目)
FDEとSESの違い|同じ「客先」でも持つ範囲が違う
FDEとSESの違いは、顧客の現場で受け持つ範囲にあります。どちらも顧客先で仕事をしますが、仕事の始まりと終わりが違います。
| 比べる点 | SES(客先常駐)で多い形 | FDE |
|---|---|---|
| 仕事の始まり | 決まった要件や指示を受け取ってから作る | 業務を聞き取り、解く課題を自分で決める |
| 受け持つ範囲 | 契約で決まった作業の範囲 | 課題選びから作る・本番に出す・定着まで |
| 仕事の終わり | 作ったものを渡したところ | 使われているかを数字で確かめたところ |
| 顧客と話す相手 | 指示を出す担当者が中心 | 現場の担当者・情報システム部門・経営層 |
ここで大事なのは、どちらが上という話ではないことです。SESは、決まった範囲を確実に作る力で顧客を支えています。FDEは、その前後の「何を作るか決める」と「使われるか確かめる」まで広げた形です。
ポイントはここです。SESのエンジニアがFDEに移るときに足りなくなるのは、技術ではなく上流の工程です。上流の工程とは、業務を理解し、要件を決め、設計するまでの部分を指します。
もう1つの違いは、顧客と話す相手の広さです。常駐の仕事では、指示を出す担当者とのやり取りが中心になりがちです。FDEは、現場の担当者・情報システム部門・経営層と、立場の違う人の言い分をそろえながら進めます。この広さも、上流の工程を経験するうちに少しずつ身につきます。
SESからFDEへの育成が注目される理由
SESからFDEへの育成は、日本のIT業界の動きとも重なっています。
日経クロステックは2026年8月に、IT大手4社が「脱・人月」に向けてFDEの拡充に意欲を示していると報じました。人月とは、作業にかかった人数と月数で費用を決める考え方です。見出しからは、FDEを人月の形から離れる手段として位置づけていることが読み取れます。
国内で「FDE」と呼ばれる役割を5つの型に分ける整理もあります。自社製品を顧客に合わせる型、商談の段階で技術提案をする型、導入後の定着を支える型、顧客ごとに個別開発から運用までを担う「SIer型」、戦略からAIの実装と成果までを一気通貫で担う型です。SESやSIerの会社から見ると、SIer型はいまの仕事の延長にあります。
研修の側でも動きがあります。SES・SIer向けのFDE育成プログラムを掲げる会社や、「研修→伴走→自走」の3段階で育成を進める会社が出てきています。民間のFDE検定の公式テキストには『日本流FDE』という書名が使われており、海外の型を日本企業の働き方に合わせる考え方も広がっています。
SESのエンジニアがFDEに近い点と足りない点
SESのエンジニアは、FDEに必要な力の一部をすでに持っています。育成を始める前に、近い点と足りない点を分けておくと、どこに時間をかけるかが決まります。
FDEに近い点は、次の3つです。
- 顧客の現場に入り、顧客の決まりの中で仕事をした経験がある
- 顧客の既存のシステムや、業界の用語に触れている
- 決まった範囲なら、一人で作って渡せる実装の力がある
一方で、足りなくなりやすいのは次の3つです。
- 改修の依頼の裏にある、業務の困りごとを聞き出すこと
- 作る範囲と作らない範囲、良くなったと言える数字を決めること(要件定義)
- データの持ち方や画面の流れを、選ばなかった案の理由まで含めて決めること(設計)
ポイントはここです。足りない3つは、どれも上流の工程に当たります。常駐の仕事では、上流の工程は顧客か元請けの担当者が持っていることが多いので、経験する機会が少ないのは自然なことです。
会社の側から見ると、上流の工程を経験したエンジニアが増えることには、常駐先での信頼が厚くなるという良さもあります。依頼の裏の困りごとまで聞けるエンジニアは、顧客から相談を受けやすくなります。FDE型の支援を始めるかどうかにかかわらず、育成の投資が無駄になりにくい形です。
現在地を項目ごとに確かめたい場合は、FDEに必要なスキルの記事とFDEスキルチェックリストが使えます。本人と上長が別々に点を付けると、足りない領域がはっきりします。
SESからFDEへの5ステップ|作業を受ける側から課題を決める側へ
SESからFDEへの育成は、次の5ステップで進めると、上流の工程を1つずつ埋められます。
| ステップ | いまの仕事(作業を受ける側) | 次にできるようにすること | 目安の期間 |
|---|---|---|---|
| 1. 業務を理解する | 指示された画面の改修を、仕様書どおりに作る | 改修した画面が、どの業務のどの手順で使われるかを図に描く | 1〜2か月 |
| 2. 困りごとを見つける | 届いた改修の依頼を、届いた順に受ける | 依頼と、その裏にある困りごとを分けて一覧にする | 2〜3か月 |
| 3. 要件を決める | 決まった要件を受け取ってから作る | 作る範囲・作らない範囲・数字を決めて文書にする | 3か月 |
| 4. 設計する | 決まった設計にそって担当の部分を作る | データの持ち方や画面の流れを、選ばなかった案の理由まで書く | 2〜3か月 |
| 5. 上流から一人で回す | 上流の工程は顧客か元請けが決める | 業務の理解から使われているかの確認までを一人で通す | 3か月 |
SESからFDEへの5ステップの目安を足すと、11〜14か月です。半年ごとの面談で、2〜3ステップずつ進む見込みで組みます。
この順番には理由があります。ステップ1〜2は、いまの常駐の仕事の中で練習できます。改修の依頼を受けるたびに、使う人と使う場面を確かめるだけで、業務の理解は積み上がります。ステップ3〜4は、常駐先では任されないことが多いので、社内の題材で練習します。
SESの常駐先でできるFDEの練習|業務の理解と困りごと
SESの常駐先でFDEの練習をするときは、いまの仕事の中に小さな問いを足すのが基本です。新しい作業を増やすのではなく、受けている依頼の聞き方を変えます。
ステップ1では、改修の依頼を受けたときに「この画面は誰がいつ使いますか」を1問だけ足して聞きます。答えを集めて、改修した画面が業務のどの手順で使われているかを1枚の図に描きます。描いた図は利用部門の担当者に見せ、直された箇所が3つ以内なら次へ進みます。
ステップ2では、直近3か月の改修の依頼を読み直します。たとえば12件の依頼を並べると、同じ困りごとから出た依頼が見つかることがあります。依頼の一覧の横に「それが無いと誰が何に困るか」の欄を足し、書けない行に印を付けていきます。
ここで気をつけたいのは、常駐先での聞き取りや提案が、契約で決まった作業の範囲に入るかです。常駐先で新しい種類の作業を始める前に、SESの会社の営業と、指示を出す人の決まりを確かめておきます。本人の判断だけで範囲を広げないことが、顧客との信頼を守ることにもつながります。
常駐のエンジニアの経験を棚卸しするときは、SESスキルシートの形で案件ごとに書き出しておくと、どのステップの経験がすでにあるかが分かりやすくなります。
SESからFDEへ移る要件定義と設計は社内の題材で練習する
SESからFDEへ移るうえで、いちばん経験が足りなくなりやすいのが要件定義と設計です。常駐先では上流の工程を任されないことが多いため、社内の業務を題材に練習します。
題材は、社内の総務・経理・営業の手作業から選びます。たとえば勤怠の締め作業や、経費精算の確認作業です。月に5時間以上かかっている作業を候補にすると、効果が数字で見えやすくなります。
ステップ3の要件定義では、総務の担当者と一緒に、作る範囲・作らない範囲・良くなったと言える数字を決めて文書にします。大事なのは「作らない範囲」を最低2つ書くことです。作らない範囲が抜けたまま進むと、設計の段階で範囲が広がり、作り直しが出ます。
ステップ4の設計では、データの持ち方・画面の流れ・ほかのシステムとのつなぎ方を決めます。選んだ案だけでなく、選ばなかった案と理由を2つ以上書くのがコツです。設計書は、社内の設計の経験者2人に見てもらいます。
社内の題材なら、顧客の案件と違って失敗しても損が小さく、上長が同席して見ることもできます。要件定義と設計の型を一度通しておくと、常駐先で上流の工程を任されたときに慌てずに済みます。スキルの段階の付け方はスキルマップの作り方も参考になります。
SESからFDEへの最後のステップ|上流から一人で回す
SESからFDEへの育成の最後は、業務の理解から要件・設計・作る・使われているかの確認までを、一人で通すステップです。
このステップでは、社内の利用部門の小さな案件か、自社が直接受けた小さな案件を主担当で持たせます。上長は週1回の相談だけにし、打ち合わせには出ません。確かめ方は、入れる前と後の作業時間を同じ測り方で比べ、利用部門の責任者に報告できたかです。
会社として用意したいのは、一人で回す案件を、常駐の契約の切り替わりに合わせて用意しておくことです。常駐の契約が延びると、一人で回す場が作れず、ステップ4で止まってしまいます。営業と相談して、契約が切り替わる2か月前には案件の名前を決めておきます。
一人で回す案件は、大きさより「最初から最後まで通せるか」で選びます。たとえば、利用部門の1つの手作業をなくす案件なら、聞き取りから報告までを2〜3か月で通せます。
常駐を続けたまま進める場合は、週4時間を社内の案件に充てる形も考えられます。短い時間でも、上流から一人で通す経験が1回あれば、FDEとして顧客の現場に出す判断の材料になります。
一人で回せるようになったあとは、6か月の育成計画で顧客の案件に入る段階に進めます。その組み方は社内でFDEを育てる6か月の計画にまとめています。
SESからFDEへの育成ステップ表の使い方
SESからFDEへの5ステップは、1人に1枚の表にしておくと、面談のたびに同じものを見て話せます。入れる欄は7つです。
| 欄 | 書くこと |
|---|---|
| ステップ | 業務の理解から上流から一人で回すまでの5つ |
| 目安の期間 | 1〜2か月のように、ステップごとの長さ |
| いまの仕事 | 常駐先でいまやっていることを、作業を受ける側の言葉で |
| 次にできるようにすること | 課題を決めて作る側の言葉で |
| 練習の場と任せ方 | 常駐先で試すか、社内の題材で練習するか |
| 確かめ方 | 誰に見せて、何が満たされたら「できた」か |
| 状態 | まだ・練習中・できたの3つ |
SESからFDEへの育成ステップ表でいちばん大事なのは「確かめ方」の欄です。自分で作り終えたかではなく、確かめ方に書いた相手に見せて通ったかで「できた」にします。見せる相手を決めずに練習だけ続けると、本人の中では「できた」のまま、上流の工程を任せたときに通りません。
FDEスキルチェックリストを併せて使う場合は、ステップ1〜2を業務の理解の項目、ステップ3〜5を顧客との推進の項目と照らして、半年ごとに点を付け直します。ステップが進んだのに点が上がらない項目があれば、練習の場が上流の工程になっていない合図です。
毎月の面談では、見せた相手・日付・直された箇所の数を聞いて状態を入れます。半年ごとに、まだのまま止まっているステップを見つけ、練習の場を替えます。
このExcelには、SESの会社で製造業の顧客の基幹システムの保守に常駐している、入社4年目のエンジニア(架空)の記入例が入っています。5ステップのうち2つができた、1つが練習中という途中の状態です。
育成の全体の流れ(選ぶ・測る・育てる・現場に出す・評価する)は、ホワイトペーパー「社内でFDEを育てる手引き」にまとめています。この記事の育成ステップ表を含む11のシートと一緒に、FDE育成キットから受け取れます。
よくある質問
- Q. SESのエンジニアでもFDEになれますか。
- なれます。顧客の現場に入って仕事をした経験は、FDEにもそのまま役立ちます。足りなくなりやすいのは、業務の理解・要件定義・設計といった上流の工程です。この記事の5ステップで、1つずつ埋めていく形が進めやすくなります。
- Q. FDEとSESのいちばんの違いは何ですか。
- 受け持つ範囲です。SESは契約で決まった作業の範囲で技術を提供する形が中心です。FDEは、業務を聞き取って解く課題を決め、作って使われているかを確かめるところまでを持ちます。
- Q. 常駐先で上流の工程を任されていない場合はどうしますか。
- 社内の業務を題材に練習します。勤怠の締めや経費精算の確認など、社内の手作業を使えば、要件定義と設計の型を一度通せます。常駐先では、改修の依頼を受けるときに使う人と使う場面を聞くところから始めます。
- Q. どのくらいの期間でFDEとして現場に出せますか。
- 5ステップの目安を足すと11〜14か月です。もとの経験や、社内で練習できる題材があるかで変わります。期間より、確かめ方に書いた相手に見せて通ったかで次のステップに進めます。
- Q. 日本型FDEとは何ですか。
- 決まった定義はありませんが、海外のFDEの考え方を、日本企業の働き方や契約の形に合わせて取り入れることを指して使われることがあります。民間のFDE検定の公式テキストにも『日本流FDE』という書名が使われています。
- Q. 常駐先での聞き取りで気をつけることはありますか。
- 契約で決まった作業の範囲に入るかを、先に営業と確かめることです。指示を出す人の決まりも含めて確かめてから始めます。本人の判断だけで範囲を広げないようにします。
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