自己申告制度の運用|聞く5項目と回答の返し方
年に1回、自己申告書を全員に書いてもらっている。集めて人事のファイルに綴じて、それきり。2年目から白紙が増え、3年目には「毎年出しているけど何も変わらない」と言われる。返していないことが原因です。
一般には、自己申告制度とは、本人の希望や状況を定期的に申告してもらう仕組みを指します。制度そのものは簡単ですが、回答を返すところまでを設計しないと、数年で形骸化しやすくなります。この記事では、自己申告制度の運用を、聞く項目、扱いの範囲、返し方の順に整理します。
この記事の内容(11項目)
- 聞く項目は、5つまでに絞る
- 使わない項目は、聞かない
- 自由記述を1つ入れる
- 働き方の事情は、任意にする
- 扱いの範囲を、先に伝える
- 直属の上司が読むかどうかを、はっきりさせる
- 評価には使わないと、明言する
- 健康に関する情報の扱いを決めておく
- 出させたら、必ず返す
- 叶わない場合ほど、理由を返す
- 返す時期を、先に決めておく
- 返し方は、面談でも書面でもよい
- 次の年に、前回の回答から始める
- 希望を、育成と配置につなげる
- 会社の必要と重なるところを探す
- 1つでも実現すると、次から書かれる
- 次の職位を目指す人には、要件を示す
- 年1回だけにしない
- 1on1で出た話を、申告につなげる
- 急ぐ話は、年1回を待たない
- 1on1の記録には、書きすぎない
- 書きやすい様式にする
- 選択式を中心にする
- 1枚に収める
- 提出の方法に、選択肢を用意する
- 書く時間を、業務中に取る
- 自己申告制度が形骸化するときの直し方
- まず、返すことから始める
- やめる判断もある
- 小さく始めて、続ける
- 実際に動いた事例を、共有する
- 自己申告制度にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
- 自己申告制度に出てくる用語
- 自己申告制度と一緒に押さえておきたいこと
- 自己申告制度のデメリットは、返せない申告がたまること
- 自己申告制度の「働き方の事情」欄と、法律の意向聴取を分ける
- 自己申告制度で集めた内容は、本人から開示を求められることがある
- よくある質問
聞く項目は、5つまでに絞る
項目が多いと書くのが負担になり、内容も薄くなります。会社が実際に使う項目だけを聞きます。
| 聞くこと | 何に使うか | 必須か |
|---|---|---|
| いまの担当を続けたいか | 配置の判断 | 必須 |
| やってみたい作業・職種 | 育成の計画、多能工化 | 必須 |
| 取りたい資格 | 資格取得支援の対象 | 必須 |
| 異動の希望 | 人員の計画 | 会社の規模による |
| 働き方についての事情 | 勤務時間、勤務地の配慮 | 任意 |
使わない項目は、聞かない
集めても使わない項目があると、「聞いても何も起きない」という印象が全体に広がります。使う予定の無い項目は、思い切って外します。
自由記述を1つ入れる
選択式だけだと、想定していなかった話が拾えません。「その他、伝えておきたいこと」を1つ置くと、大事な話がここに書かれることがあります。
働き方の事情は、任意にする
家庭の事情や健康に関することは、書きたくない人に書かせない形にします。任意であることを明示し、書かれた場合の扱いも先に決めておきます。
扱いの範囲を、先に伝える
誰が読むのか分からないまま書かせると、当たり障りのないことしか書かれません。読む人と使い道を明示します。
| 決めること | 伝え方の例 |
|---|---|
| 誰が読むか | 人事担当と、部門長まで |
| 直属の上司が読むか | 読む/読まないを明示する |
| 何に使うか | 配置と育成の検討。評価には使わない |
| 保管の期間 | 社内の規程に従う |
直属の上司が読むかどうかを、はっきりさせる
ここがあいまいだと、上司に関する話が書けません。読む場合は「上司も読みます」と明示するほうが、誤解が起きません。読まない運用にするなら、その保管方法も決めます。
評価には使わないと、明言する
異動を希望したことが評価に響くと思われると、誰も書きません。評価とは切り離すと明言するだけで、内容が変わります。
健康に関する情報の扱いを決めておく
働き方の事情として体調に関することが書かれる場合があります。病歴は個人情報保護法で「要配慮個人情報」とされ(第2条3項)、取得にはあらかじめ本人の同意が要るとされています(第20条2項)。任意の欄であることと使い道を様式に書き、閲覧の範囲と保管を分けて扱います。迷う場合は人事の判断に従います。
出させたら、必ず返す
この制度の成否は、ほぼここで決まります。返さない年が1回あると、翌年から白紙が増えます。
叶わない場合ほど、理由を返す
希望が通った人には自然と伝わりますが、通らなかった人に何も返さないのがいちばん問題です。「今期は難しい」「こういう条件が整えば検討できる」と返します。
返す時期を、先に決めておく
「検討中」のまま1年が過ぎることがあります。提出から2か月以内に返す、と決めておくと、滞りません。
返し方は、面談でも書面でもよい
全員と面談する時間が取れないなら、書面で返す形でも構いません。大事なのは、何らかの回答が本人に届くことです。
次の年に、前回の回答から始める
前回の申告と回答を手元に置いて面談すると、話が続きものになります。状況が変わったかどうかも確認できます。
希望を、育成と配置につなげる
集めただけで終わらせないために、使う先を決めておきます。3つにつなげると、制度が回り始めます。
| 申告の内容 | つなぐ先 | いつ |
|---|---|---|
| やってみたい作業 | 育成計画、多能工化の対象 | 次の期の計画づくり |
| 取りたい資格 | 資格取得支援の対象、教育計画 | 年間教育計画を作るとき |
| 異動の希望 | 人員の計画、次の配置 | 異動を検討するとき |
| いまの担当を続けたくない | 作業の割り当ての見直し | すぐ |
会社の必要と重なるところを探す
本人の希望と、組織として足りていないところが重なれば、いちばん進みます。スキルマップの穴と、申告の内容を並べて見ると、重なりが見つかります。
1つでも実現すると、次から書かれる
制度が信用されるのは、実際に何かが変わったときです。小さくてもよいので、申告をきっかけに1件は動かします。
次の職位を目指す人には、要件を示す
上を目指したいという申告があったら、何を満たせば上がれるのかを見せます。示さないまま「頑張って」と言うだけだと、何をすればよいか分かりません。要件の作り方は職位要件の決め方にまとめています。
年1回だけにしない
年1回の申告だけだと、その時期に思ったことしか拾えません。普段の面談と組み合わせます。
| 自己申告 | 1on1 | |
|---|---|---|
| 頻度 | 年1回 | 月1回 |
| 形式 | 書面。記録として残る | 会話。要点だけ記録 |
| 届く先 | 人事、部門長 | 直属の上司まで |
| 扱い | 会社として検討する | 現場で対応できることが中心 |
1on1で出た話を、申告につなげる
普段の面談で「他の工程もやってみたい」という話が出たら、次の自己申告で正式に書いてもらうと、会社として検討できる形になります。
急ぐ話は、年1回を待たない
働き方の事情や、いまの担当が続けられないといった話は、年1回を待てません。随時受け付ける窓口も用意しておきます。
1on1の記録には、書きすぎない
異動の希望のような正式な話を1on1の記録にだけ書くと、人事に届きません。正式なものは申告の様式で受けると、扱いが分かれます。進め方は1on1の進め方で扱っています。
書きやすい様式にする
白紙が多いときは、内容ではなく様式に原因があることがあります。
| 書きにくい形 | 書きやすい形 |
|---|---|
| 自由記述だけの用紙 | 選択式を中心にして、自由記述は1つ |
| 抽象的な設問(キャリアビジョン) | 具体的な設問(やってみたい作業) |
| A4で2枚以上 | 1枚に収める |
| 提出先が上司だけ | 人事に直接出す選択肢も用意する |
選択式を中心にする
「キャリアビジョンを記入してください」と書かれると、多くの人は手が止まります。選択肢から選ぶ形にして、補足を自由記述にすると集まります。
1枚に収める
枚数が増えると、後回しにされます。A4で1枚に収まる量にしておくと、10分で書けます。
提出の方法に、選択肢を用意する
上司を経由する形だと、上司に関する話が書けません。人事へ直接出せる方法も用意すると、書ける内容が広がります。
書く時間を、業務中に取る
持ち帰って書かせると、後回しになり白紙が増えます。業務時間内に10分を確保すると、提出率が上がります。
自己申告制度が形骸化するときの直し方
集めているのに機能していない。原因はほぼ決まっています。
| 症状 | よくある原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 白紙や「特になし」が多い | 返していない。設問が抽象的 | 回答を返す。設問を具体的にする |
| 毎年同じ内容が出てくる | 前年の申告に対応していない | 前回の回答から面談を始める |
| 本音が書かれない | 誰が読むか分からない | 読む範囲と使い道を明示する |
| 集めただけで終わる | 使う先が決まっていない | 育成計画と教育計画につなげる |
| 提出率が低い | 持ち帰りで書かせている | 業務時間内に書く時間を取る |
まず、返すことから始める
制度をいろいろ直す前に、前年ぶんの申告に回答を返すところから始めてください。それだけで、翌年の提出内容が変わります。
やめる判断もある
返す体制が作れないまま集め続けると、不信だけが溜まります。回せないなら、いったんやめて1on1に寄せるという判断もあります。
小さく始めて、続ける
全社で完璧な制度を作ろうとすると、着手できません。1つの部署で、5項目1枚から始めると、回るかどうかがすぐ分かります。
実際に動いた事例を、共有する
個人が特定されない形で、「申告をきっかけに配置が変わった」といった事例を伝えると、制度が信用されます。
自己申告制度にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
自己申告制度そのものを定めた法令はありません。自己申告制度に関係してくるのは、育児・介護・治療と仕事の両立について、会社が本人の事情や意向を個別に聞くことを求める決まりが増えていることです。確かめられた動きを日付順に並べます。
| 時期 | 出来事 | 自己申告制度への影響 |
|---|---|---|
| 2025年4月1日 | 改正育児・介護休業法の施行。介護に直面した旨を申し出た労働者への、制度の個別の周知と利用の意向の確認、40歳などの早い段階での情報提供が義務になった | 介護の事情は、年1回の申告を待たずに申し出を受けて個別に対応する |
| 2025年10月1日 | 妊娠・出産等の申出時と、子が3歳になる前の一定の時期に、勤務時間帯、勤務地、両立支援制度の利用期間、業務量などについて本人の意向を個別に聞き、配慮することが義務になった | 自己申告書の「働き方の事情」欄と聞く内容が重なる。申告書で代えず、決められた時期に個別に聞く |
| 2026年2月10日 | 「治療と就業の両立支援指針」(令和8年厚生労働省告示第28号)が公表された | 病気の治療についての相談を受ける流れを、申告とは別に用意する目安になる |
| 2026年4月1日 | 改正労働施策総合推進法の施行。治療を受けている労働者からの相談に応じる体制の整備など、治療と就業の両立支援が事業主の努力義務になった | 健康の事情は任意の欄で受けつつ、随時の相談窓口を案内しておく |
自己申告制度で押さえたいポイントは、法律で求められる個別の意向の聞き取りは、時期と項目が決まっていて、年1回の自己申告では代えられないことです。自己申告は会社としての配置と育成の材料、両立の意向聴取は法律上の手続き、と分けておくと整理できます。
出典:育児・介護休業法改正のポイント(厚生労働省)、育児・介護休業法について(厚生労働省)、治療と仕事の両立支援(堺市)
確認日は2026年10月3日です。育児・介護休業法と両立支援の扱いは、所轄の都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)にご確認ください。
自己申告制度に出てくる用語
自己申告制度の話では、人事の用語と法律の用語が混ざって出てきます。出どころと一緒に並べます。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 自己申告制度 | 本人の希望や状況を、定期的に書面などで申告してもらう仕組み。項目や頻度は会社が決める | 法令上の定義はない |
| 社内公募・社内FA | 会社が出した募集に手を挙げる仕組み(公募)と、本人が自分を売り込む仕組み(FA)。自己申告と並べて使われる | 法令上の定義はない |
| 個別の意向聴取・配慮 | 妊娠・出産等の申出時と子が3歳になる前に、勤務時間帯や勤務地などの意向を個別に聞き、配慮すること | 育児・介護休業法(2025年10月1日施行の改正) |
| 個別の周知・意向確認(介護) | 介護に直面した旨の申出をした労働者に、制度を知らせ、利用の意向を確かめること | 育児・介護休業法(2025年4月1日施行の改正) |
| 要配慮個人情報 | 病歴などを含み、取扱いに特に配慮を要する個人情報。取得には原則として本人の同意が要る | 個人情報保護法 第2条3項・第20条2項 |
| 心身の状態に関する情報 | 労働者の健康に関する情報。健康の確保に必要な範囲で集め、目的の範囲で保管・使用する | 労働安全衛生法 第104条 |
| 治療と就業の両立支援 | 治療を受けながら働く人の相談に応じ、働き方を整えること。2026年4月1日から事業主の努力義務 | 労働施策総合推進法、治療と就業の両立支援指針 |
自己申告制度で取り違えやすいのは、本人が書いた健康の事情も、会社が持てば要配慮個人情報として扱う必要があることです。閲覧できる人を、申告書のほかの欄より狭くしておきます。
自己申告制度と一緒に押さえておきたいこと
自己申告制度を調べると、「とは」「メリット」「デメリット」「事例」といった定義と導入の話が多く出てきます。運用する側から見て、あまり書かれていない点を3つ挙げます。
自己申告制度のデメリットは、返せない申告がたまること
自己申告制度のデメリットとして、書く手間や、希望が通らないことへの不満がよく挙げられます。現場で問題になるのは、それより会社が回答できない申告が年々たまり、聞いても無駄という空気になることです。集める前に「誰が、いつまでに、どう返すか」を決め、返せない項目は聞かないほうが、制度は長く続きます。
自己申告制度の「働き方の事情」欄と、法律の意向聴取を分ける
自己申告書に勤務地や勤務時間の希望を書く欄を置いている会社は多くあります。2025年10月からは、育児中の人に対して決められた時期に意向を聞くことが義務になったため、申告書の欄で受けたことを、法律上の意向聴取の代わりにしない形にしておきます。法律上の聞き取りは時期と項目を守って別に行い、その記録も分けて残すと、あとで確認しやすくなります。
自己申告制度で集めた内容は、本人から開示を求められることがある
自己申告書と、それに対する会社の検討メモは、本人を識別できる個人データとして、本人から開示を求められることがあります(個人情報保護法第33条)。業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合などは全部または一部を開示しないことができますが、個別の判断が要ります。検討メモも、本人に読まれて困らない書き方で残すのが安全です。異動の検討に使った場合は、誰が読んだかも残しておきます。
よくある質問
- Q. 自己申告書では、何を聞けばよいですか?
- 5項目までに絞ってください。いまの担当を続けたいか、やってみたい作業や職種、取りたい資格の3つは使い道がはっきりしています。会社の規模によっては異動の希望も加えます。働き方についての事情は任意にしてください。集めても使わない項目があると、聞いても何も起きないという印象が広がります。
- Q. 集めた申告に、必ず回答を返す必要がありますか?
- この制度の成否は、ほぼここで決まります。返さない年が1回あると、翌年から白紙が増えます。とくに、希望が通らなかった人に何も返さないのがいちばん問題です。「今期は難しい」「こういう条件が整えば検討できる」と理由を添えて返してください。提出から2か月以内、と時期を決めておくと滞りません。
- Q. 直属の上司が内容を読むかどうかは、伝えるべきですか?
- はっきりさせてください。あいまいだと、上司に関する話が書けません。読む場合は「上司も読みます」と明示するほうが、誤解が起きません。読まない運用にするなら、人事へ直接出せる方法と保管の仕方も決めてください。
- Q. 異動を希望したことが、評価に響かないか心配されます。
- 評価とは切り離すと明言してください。それだけで書かれる内容が変わります。あわせて、誰が読むか、何に使うかを様式に書いておくと、本人が判断できます。
- Q. 白紙や「特になし」が多くて困っています。
- 返していないか、設問が抽象的かのどちらかであることが多くあります。「キャリアビジョンを記入してください」ではなく「やってみたい作業」と具体的に聞き、選択式を中心にしてください。あわせて、A4で1枚に収め、業務時間内に10分の記入時間を取ると提出率が上がります。
- Q. 自己申告と1on1は、どう使い分けますか?
- 自己申告は年1回の書面で、人事や部門長まで届き、会社として検討するものです。1on1は月1回の会話で、直属の上司が現場で対応できることが中心になります。1on1で出た話を次の自己申告で正式に書いてもらうと、会社として検討できる形になります。異動の希望を1on1の記録にだけ書くと、人事に届きません。
- Q. 集めるだけで何も変わっていません。どこから直しますか?
- まず、前年ぶんの申告に回答を返すところから始めてください。それだけで翌年の提出内容が変わります。あわせて、やってみたい作業は育成計画へ、取りたい資格は年間教育計画と取得支援へ、というように使う先を決めてください。小さくてもよいので、申告をきっかけに1件は実際に動かすと、制度が信用されます。返す体制が作れないなら、いったんやめて1on1に寄せる判断もあります。
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