新人の質問を記録する|集め方と書く4項目、手順書への還し方
毎年、新人が入るたびに同じ質問を受けている。答えられるので困りはしませんが、その説明は手順書に書いておけば済んだはずのものです。
新人の質問は、手順書や教材の弱点をそのまま示しています。ところが、その場で答えて終わりにすると何も残りません。この記事では、新人の質問を記録する方法を、集め方、書き方、教材への還し方の順に整理します。用紙そのものは、テンプレートのページから無料でダウンロードできます。
この記事の内容(11項目)
- 質問を記録すると、2つのことに使える
- その場で聞けないことを、拾えるようにする
- 同じ質問が3回出たら、資料の穴
- 指導記録とは、別に持つ
- 集め方は、書き留める場所を渡すだけでよい
- 1日1回、答える時間を取る
- 質問の言葉を、変えずに残す
- 「こんなことを聞いてよいのか」を先に外す
- 記録に残すのは4項目
- 出どころを書くと、集計できる
- 対応の欄を、必ず埋める
- 答えた人の名前も残す
- 溜まった質問を、教材に還す
- 直すのは、月に1、2か所でよい
- 手順書に足すか、別紙にするかを決める
- 動画のほうが早い場合もある
- 直したら、改訂として記録する
- 質問由来の改訂は、理由が書きやすい
- 既存の作業者にも伝える
- 効いたかどうかを、次の新人で見る
- 質問が出てこないときに見るところ
- 質問が止まったら、覚えたのではないかもしれない
- 同じ質問を、何度でも受ける
- 新人以外にも広げる
- 記録を、新人を評価する材料にしない
- 指導者の評価にも使わない
- 目的を、最初に伝える
- 直った結果を、本人に見せる
- 教育ニーズの材料としても使える
- 新人の質問の記録にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
- 新人の質問の記録に出てくる用語
- 新人の質問の記録と一緒に押さえておきたいこと
- 質問の記録で、雇入れ時の教育の届き方を確かめる
- 新人に「質問の仕方」を渡しておく
- 異動した人の質問も、同じ用紙に集める
- 質問の多い作業を、教育の計画に載せる
- よくある質問
質問を記録すると、2つのことに使える
記録の目的は、質問に答えることではありません。本人が聞きやすくなることと、資料を直す材料が集まることの2つです。
| 使い道 | 効き方 | いつ効くか |
|---|---|---|
| 本人が聞きやすくなる | その場で声をかけなくても、書いておける | すぐ |
| 資料を直す材料になる | 同じ質問が出た場所を、手順書に書き足す | 数か月後 |
その場で聞けないことを、拾えるようにする
指導者が忙しそうにしていると、新人は声をかけられません。書き留めておける場所があれば、その場で聞けなくても消えません。1日の終わりにまとめて答えます。答える時間は、新人教育の計画の最初の時期(安全と職場に慣れる時期)に組み込んでおくと無理がありません。
同じ質問が3回出たら、資料の穴
1人が聞いたなら本人の聞き逃しかもしれませんが、3人が同じことを聞いたら、書かれていないか、分かりにくいかのどちらかです。記録が無いと、この判断ができません。
指導記録とは、別に持つ
指導記録は1人ぶんの履歴で、質問を横断して見るには向きません。質問は質問だけを集めた場所に溜めると、複数人からの同じ質問が見つかります。
集め方は、書き留める場所を渡すだけでよい
凝った仕組みは要りません。紙1枚を渡して、そこに書いてもらうところから始めます。
| 集め方 | 向いている場面 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 個人に紙を渡す | 新人が数人まで | 回収の日を決める |
| 職場に共通の用紙を置く | 誰でも書ける状態にしたい | 名前を書かせない選択もある |
| 指導者が代わりに書く | 新人が書くのに抵抗がある | 質問の言葉を変えない |
1日1回、答える時間を取る
書いてもらっても答えが返らなければ、次から書かれません。1日の終わりに5分、まとめて答える時間を決めます。ここが仕組みの要です。
質問の言葉を、変えずに残す
指導者が要約すると、何が分からなかったのかが消えます。本人の言葉のまま残すと、資料を直すときにどこが伝わっていなかったかが分かります。
「こんなことを聞いてよいのか」を先に外す
質問のレベルを気にして書けない人がいます。「何を書いてもよい」と最初に伝えるだけで、量が変わります。基本的な質問こそ、資料の穴を示しています。
記録に残すのは4項目
項目を増やすと書かれません。質問、答え、出どころ、対応の4つで足ります。
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 質問 | 本人の言葉のまま |
| 答え | そのとき答えた内容 |
| 出どころ | どの作業、どの手順に関するものか |
| 対応 | 手順書に追記した、動画を撮った、対応不要、など |
出どころを書くと、集計できる
作業名を書いておくと、どの作業に質問が集中しているかが分かります。そこが、いちばん手順書が足りていない作業です。
対応の欄を、必ず埋める
答えただけで終わると、来年また同じ質問が出ます。「手順書の3項目に追記」と書くところまでやって1件です。対応不要と判断したなら、それも書きます。
答えた人の名前も残す
指導者によって答えが違うことがあります。誰が答えたかが残っていると、食い違いに気づけます。本人が「前と違う」と感じる原因もここにあります。
溜まった質問を、教材に還す
記録するだけでは、資料は良くなりません。月1回、溜まったものを見て、直す場所を決めます。
直すのは、月に1、2か所でよい
溜まった質問をすべて資料に反映しようとすると、手が止まります。件数の多いものから月に1、2か所直せば、1年で十数か所が埋まります。
手順書に足すか、別紙にするかを決める
手順書に何でも書き足すと、本体が読みにくくなります。よくある質問だけを集めた別紙にするという選択もあります。作業の流れに関わることは本体、補足は別紙です。
動画のほうが早い場合もある
手の動きや力加減に関する質問は、文章で書くより30秒の動画を1本撮るほうが速く、伝わります。置き場所は教材の一覧に載せます。
直したら、改訂として記録する
質問をもとに手順書を直したなら、それは改訂です。履歴に残して、周知するところまでやります。
| やること | 忘れるとどうなるか |
|---|---|
| 改訂の履歴に理由を書く | なぜ足したかが分からなくなる |
| 版と日付を更新する | どれが新しいか分からなくなる |
| すでに覚えた人にも伝える | 新人だけが新しい手順を知っている状態になる |
| 質問の記録に、対応を書き戻す | 同じ質問にまた対応することになる |
質問由来の改訂は、理由が書きやすい
「新人から3件同じ質問が出たため追記」と書けば、数年後に見ても経緯が分かります。改訂の履歴の書き方は手順書の改訂と周知にまとめています。
既存の作業者にも伝える
新人が困ることは、実はベテランも曖昧なまま進めていることがあります。追記した内容を、その作業をする全員に伝えると、やり方がそろいます。
効いたかどうかを、次の新人で見る
直した内容が効いたかは、次に新人が入ったときに分かります。同じ質問が出なくなったら、直し方が合っていたということです。
質問が出てこないときに見るところ
用紙を渡しても白紙のまま。原因は、書く場所ではなく雰囲気にあることが多くあります。
| 症状 | よくある原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| まったく書かれない | 答えが返ってこない | 1日1回、答える時間を決める |
| 2週目から止まった | 聞くのをやめた可能性 | こちらから困っていることを聞く |
| 簡単な質問が出ない | レベルを気にしている | 何を書いてもよいと伝える |
| 指導者にだけ聞く | その人が忙しいと止まる | 聞ける相手を2人紹介する |
| 同じ質問を繰り返す | 1回目の答えが伝わっていない | やらせながら答える |
質問が止まったら、覚えたのではないかもしれない
入って2週間で質問が止まったら、覚えたのではなく聞くのをやめた可能性を先に疑います。覚えた人は、もっと細かい質問をするようになります。早めに辞めてしまう前触れのこともあるので、こちらから困っていることを聞きに行きます。
同じ質問を、何度でも受ける
「前にも言ったよね」と一度言われると、次から聞けなくなります。2回目までは普通に答えると決めておくだけで、質問が続きます。
新人以外にも広げる
質問の記録は新人向けに始めますが、異動者や、久しぶりにその作業をする人からも同じ質問が出ます。誰でも書ける場所にすると、材料が増えます。フォローの見方は新人の早期離職を防ぐで扱っています。
記録を、新人を評価する材料にしない
質問の数や内容が評価に使われると、その瞬間に書かれなくなります。使い方を先に伝えておきます。
| 使ってよい | 使ってはいけない |
|---|---|
| 手順書や教材を直す材料 | 本人の理解度の評価 |
| 教育計画に載せる項目の候補 | 指導者の評価 |
| 次の新人への説明の材料 | 質問の数を競わせること |
指導者の評価にも使わない
質問が多い=教え方が悪い、と扱われると、指導者が質問を記録しなくなります。質問が多いことは、資料が足りていないことを示しているだけです。
目的を、最初に伝える
「手順書を直すために集めています」と最初に言うと、本人も協力する側に回れます。集められている感覚が減ります。
直った結果を、本人に見せる
自分の質問がきっかけで手順書が直ったと分かると、次からも書いてもらえます。「あなたの質問で、ここを追記しました」と伝えます。
教育ニーズの材料としても使える
質問の記録は、年間教育計画を作るときの材料にもなります。資料で解決できないものは、教育の項目として計画に載せます。
新人の質問の記録にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
新人の質問の記録そのものを定めた法令はありません。一方で、新人に何を教えるかを定めた安全衛生の決まりと、新人の定着を示す国の統計には、2024年以降に動きがあります。一次情報で確かめられたものを日付順に並べます。
| 時期 | 出来事 | 新人の質問の記録への影響 |
|---|---|---|
| 2024年4月1日 | 雇入れ時等の教育について、一部の業種で認められていた項目の省略の規定がなくなり、機械や原材料の危険性、保護具、作業手順、作業開始時の点検などの教育が全業種で必要になった(労働安全衛生規則第35条) | 「作業手順に関すること」を教えたあとに出る質問は、そのまま手順書の穴の候補になる |
| 2024年10月25日 | 令和3年3月卒業者の就職後3年以内の離職率が公表された。大学卒34.9%、高校卒38.4% | 入社から3年のうちに、およそ3人に1人が辞めている |
| 2025年10月24日 | 令和4年3月卒業者の就職後3年以内の離職率が公表された。大学卒33.8%(前年から1.1ポイント低下)、高校卒37.9%(同0.5ポイント低下)。大学卒を事業所の規模別に見ると、5人未満57.5%、5〜29人52.0%、30〜99人41.9%、1,000人以上27.0% | 規模の小さい職場ほど離職率が高い。指導者が1人で抱えやすい職場ほど、質問を紙に残す仕組みが効く |
新人の質問の記録で効いてくるポイントは、質問の記録が、教えたことが届いたかを確かめる材料にもなることです。教育を「やった」で終えず、あとから出た質問で届き方を見ると、次の新人への教え方が直せます。
出典:労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)、労働安全衛生法の新たな化学物質規制(厚生労働省)、新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)(厚生労働省)、新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)(厚生労働省)
確認日は2026年10月3日です。雇入れ時の教育の内容は所轄の労働基準監督署に、離職率の最新の数字は厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」のページでご確認ください。直近2回は、どちらも10月下旬に公表されています。
新人の質問の記録に出てくる用語
新人の質問の記録では、社内の言い方と法令の言い方が混ざります。出どころと一緒に並べます。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 雇入れ時等の教育 | 労働者を雇い入れたとき、または作業内容を変えたときに、その業務の安全や衛生のために必要な事項を教えること。危険性、保護具、作業手順、作業開始時の点検など8つの事項が挙げられている | 労働安全衛生法 第59条第1項・第2項、労働安全衛生規則 第35条 |
| 作業手順 | 雇入れ時等の教育の事項の1つに「作業手順に関すること」がある。手順書の書き方そのものは法令で決まっていない | 労働安全衛生規則 第35条第1項第3号 |
| 特別教育 | 危険または有害な業務につかせるときの特別の教育。受講者や科目などの記録を作り、3年間保存する | 労働安全衛生法 第59条第3項、労働安全衛生規則 第36条・第38条 |
| 業務の遂行の過程内の職業訓練 | 一般にOJTと呼ばれるもの。事業主は、業務の遂行の過程内でも過程外でも職業訓練を行えるとされている。「OJT」という語そのものには法令上の定義はない | 職業能力開発促進法 第9条 |
| 職業能力開発推進者 | 社内の職業能力開発の計画づくりや、労働者への相談・指導などを担当する人。選任は努力義務 | 職業能力開発促進法 第12条 |
| 質問の記録・よくある質問の別紙 | この記事で使っている言い方。法令上の定義はない | 法令上の定義はない |
新人の質問の記録で取り違えやすいのは、教育の記録と質問の記録を同じものとして扱うことです。特別教育には記録を3年間保存する定めがありますが、雇入れ時等の教育を定めた第35条には、記録の保存の定めは置かれていません。それでも、何を教えたかの記録があると、あとから出た質問が「教えていないこと」なのか「教えたが伝わっていないこと」なのかを分けられます。
新人の質問の記録と一緒に押さえておきたいこと
新人の質問の記録を扱う記事の多くは、新人の心構えや聞き方の話で終わっています。ここでは、受け入れる側が押さえておくと役立つ点を4つ置きます。
質問の記録で、雇入れ時の教育の届き方を確かめる
雇入れ時等の教育では、機械や原材料の危険性、安全装置や保護具の扱い方、作業手順、作業開始時の点検などを教えることとされています(労働安全衛生規則第35条第1項)。十分な知識と技能があると認められる人については、その事項の教育を省略できるとされています(同条第2項)。保護具や点検について質問が出たら、その場で答えるだけでなく、教育の中身を見直す合図として扱います。答えた内容を記録に残しておくと、次の新人の教育に足せます。
新人に「質問の仕方」を渡しておく
「何が分からないのかが分からない」という新人は少なくありません。用紙の上に、何をしていたとき、どこで止まったか、自分ではどう考えたかの3つを書く欄を作っておくと、質問の仕方そのものを教えられます。答える側も、どこを直せばよいかがすぐ分かります。
異動した人の質問も、同じ用紙に集める
安全衛生の教育は、雇い入れたときだけでなく、作業内容を変えたときにも行うこととされています(労働安全衛生法第59条第2項)。異動した人や担当が変わった人の質問は、新人の質問と同じく、手順書の弱いところを示します。用紙を新人専用にしないと、材料が増えます。
質問の多い作業を、教育の計画に載せる
事業主は、職業能力の開発が段階的・体系的に行われるよう計画を作るように努めることとされ(職業能力開発促進法第11条)、その計画づくりなどを担当する職業能力開発推進者を選ぶように努めることとされています(同法第12条)。質問の記録で件数の多かった作業は、手順書を直したうえで、計画の中の教える項目にも載せると、毎年の教え方がそろいます。
出典:労働安全衛生法(e-Gov法令検索)、労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)、職業能力開発促進法(e-Gov法令検索)。確認日は2026年10月3日です。安全衛生の教育の要否と範囲は、所轄の労働基準監督署にご確認ください。
よくある質問
- Q. 新人の質問を記録して、何に使うのですか?
- 2つあります。1つは、その場で聞けなかったことを書き留めておける場所ができ、本人が質問しやすくなること。もう1つは、同じ質問が繰り返し出ている場所が分かり、手順書や教材を直す材料になることです。とくに3人が同じことを聞いたら、書かれていないか分かりにくいかのどちらかです。
- Q. どうやって質問を集めればよいですか?
- 紙1枚を渡して書いてもらうだけで足ります。大切なのは、1日の終わりに5分、まとめて答える時間を決めることです。書いてもらっても答えが返らなければ、次から書かれません。あわせて「何を書いてもよい」と最初に伝えると、量が変わります。
- Q. 記録には何を書けばよいですか?
- 質問、答え、出どころとなる作業名、対応の4項目で足ります。とくに対応の欄を必ず埋めてください。答えただけで終わると、来年また同じ質問が出ます。「手順書の3項目に追記」と書くところまでやって1件です。
- Q. 質問は本人の言葉のまま書くべきですか?
- 変えずに残してください。指導者が要約すると、何が分からなかったのかが消えます。「どっちが先か毎回迷う」という言葉が残っていれば、手順書の順番が読みにくい可能性が出てきますが、「手順が分かっていない」と要約すると本人の問題になってしまいます。
- Q. 溜まった質問は、どのくらいの頻度で見ればよいですか?
- 月1回、30分で足ります。作業ごとに質問を並べて件数を数え、3件以上出たものから月に1、2か所だけ直してください。すべて反映しようとすると手が止まります。月1、2か所でも、1年で十数か所が埋まります。
- Q. 質問がまったく出てこない場合は、どうすればよいですか?
- まず、答える時間が決まっているかを確認してください。あわせて、入って2週間で質問が止まった場合は、覚えたのではなく聞くのをやめた可能性を先に疑ってください。覚えた人は、もっと細かい質問をするようになります。「前にも言ったよね」と一度言われると次から聞けなくなるため、2回目までは普通に答えると決めておくのも有効です。
- Q. 質問の記録を、本人の評価に使ってもよいですか?
- 使わないでください。質問の数や内容が評価に使われると、その瞬間に書かれなくなります。指導者の評価にも使わないでください。質問が多いことは、教え方が悪いのではなく資料が足りていないことを示しているだけです。「手順書を直すために集めています」と目的を最初に伝え、直った結果を本人に見せると、次からも協力してもらえます。
- Q. 集めた質問は、手順書に全部書き足すべきですか?
- 全部を手順書に足すと、本体が読みにくくなります。作業の流れに関わることは手順書の本体へ、補足はよくある質問だけを集めた別紙へ、と分けてください。また、手の動きや力加減に関する質問は、文章で書くより30秒の動画を1本撮るほうが速く、確実に伝わります。
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