多能工化の進め方|育てる順番、進まない原因、その日の配置の確かめ方
多能工化を進めようと決めたものの、誰に何を覚えてもらえばよいか決まらない。全員が全部できる状態を目指すと、そうなります。
一般には、多能工化とは、1人が複数の作業をこなせるようにして、人員の配置に融通が利く状態を作ることを指します。トヨタ生産方式とあわせて語られることの多い考え方です。うまくいっている職場は、理想の姿から考えず、その日の配置で困ったところから逆算しています。この記事では、多能工化の進め方を、順番の決め方から日々の確認まで整理します。
この記事の内容(11項目)
- 多能工化は、その日困ったところから始める
- 1人しかできない作業を数える
- 止まると困る順に並べる
- 作り方は、スキルマップから引く
- 育てる順番は、主作業プラス1から始める
- 隣の作業を選ぶ
- 主作業が空にならないようにする
- 覚えたあとも、たまにやらせる
- その日の配置は、別の表で1分で見る
- 足りない技能があれば、その場で手を打つ
- 資格が要る作業には、印を付ける
- 紙1枚で足りる
- 本人が引き受ける理由を用意する
- いちばん効くのは、休みが取れること
- 本人の希望を聞いておく
- できる作業が増えたことを、表に残す
- 多能工化が進まないときの原因
- 教えることが損にならないようにする
- 忙しい工程から始めない
- 全員を対象にしない
- 応援者と多能工化は、別のものとして扱う
- 応援者に、単独作業をさせない
- 応援の受け入れにも、教育の記録を残す
- 応援が常態化したら、多能工化に切り替える
- 多能工化の進み具合を、数字で見る
- 半年に1回、数えれば足りる
- ゼロにしなくてよい
- 人数だけを追わない
- 多能工化の進め方にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
- 多能工化の進め方に出てくる用語
- 多能工化の進め方と一緒に押さえておきたいこと
- 2つ目の作業を任せる前に、作業内容変更時の教育をする
- 資格が要る作業は、配置の表に資格の列を作る
- 多能工化のデメリットも先に数えておく
- 育てる物差しは、職業能力評価基準を借りる
- よくある質問
多能工化は、その日困ったところから始める
「全員が3工程できる状態」を目標にすると、達成まで数年かかり、途中で何のためにやっているか分からなくなります。先週配置で困った場面を1つ思い出すと、そこが始点になります。
理想から始める
全員が全工程を担当できる数年かかる。
途中で目的を見失う。
本人にも必要性が伝わらない。
困りごとから始める
Aさんが休むと止まる工程を2人体制にする
3か月で効果が出る。
本人にも理由が伝わる。
1人しかできない作業を数える
スキルマップを横に読んで、単独でできる人が1人だけの作業を数えます。この数が、その職場のいちばん分かりやすい弱点です。ここを2人にするだけで、休みが取れるようになります。
止まると困る順に並べる
1人しかできない作業がいくつも出てきたら、止まったときの影響が大きい順に並べます。出荷が止まる、顧客に迷惑がかかる、といった順です。全部を同時にやろうとしません。
作り方は、スキルマップから引く
多能工化の計画は、新しい表を作らなくても、既にある一覧から出せます。スキルマップの空欄が、そのまま育成の候補です。作り方はスキルマップの作り方にまとめています。
育てる順番は、主作業プラス1から始める
一度に複数の作業を覚えさせると、どれも中途半端になります。いま担当している作業に、隣の1つを足すという進め方が現実的です。
| 段階 | 状態 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 主作業だけを単独でできる | 出発点 |
| 2 | 主作業+隣の1作業(補助付き) | 3か月 |
| 3 | 主作業+隣の1作業(単独) | 6か月から1年 |
| 4 | 3作業目に入る | 1年以降 |
隣の作業を選ぶ
まったく違う工程より、前後の工程や、使う道具が近い作業のほうが覚えやすくなります。前工程を知ると、自分の作業の意味も分かります。
主作業が空にならないようにする
2つ目を覚えさせている間、主作業のほうが手薄になります。同時に動かすのは職場で1人か2人までにしておくと、生産に影響が出ません。
覚えたあとも、たまにやらせる
2つ目の作業を覚えても、その後1年やらなければ手が戻ります。3か月に1回は担当させると決めておくと、いざというときに使えます。ブランクの扱いは習熟度の判定で扱っています。
その日の配置は、別の表で1分で見る
スキルマップは全体の一覧なので、朝の配置決めには情報が多すぎます。その日必要な技能を持つ人がそろっているかだけを見る表を別に持ちます。
| スキルマップ | 多能工配置確認表 | |
|---|---|---|
| 見る単位 | 組織全体 | その日、そのシフト |
| 見る人 | 上司、育成の担当 | 朝礼をする人 |
| 見る頻度 | 年2回 | 毎日、または週1回 |
| 判断すること | 誰に何を教えるか | 今日、回るかどうか |
足りない技能があれば、その場で手を打つ
今日の顔ぶれで必要な技能が欠けていると分かれば、応援を呼ぶ、作業の順番を入れ替える、という判断がその場でできます。作業が止まってから気づくのと、朝に気づくのとでは対応の幅が違います。
資格が要る作業には、印を付ける
習熟度が足りていても、その作業に必要な免許・技能講習・特別教育を済ませていなければ、その日は任せられません。配置の表でも、資格の有無を先に見るようにします。
紙1枚で足りる
この確認に凝った仕組みは要りません。作業を縦、その日の出勤者を横に並べた紙1枚で、朝礼の1分で判断できます。
本人が引き受ける理由を用意する
多能工化は、本人から見ると仕事が増える話です。会社の都合だけを説明しても、進みません。
| 本人にとっての利点 | 伝え方 |
|---|---|
| 休みが取りやすくなる | 代われる人が増えると、自分も休める |
| やりたい工程に移れる | 希望の配置に近づく道筋になる |
| 評価につながる | できる作業の数を、評価の材料にする |
| 手当がつく | 制度がある場合は明示する |
いちばん効くのは、休みが取れること
手当より、自分が休んでも職場が回るという実感のほうが動機になることが多くあります。1人しかできない作業を持っている人ほど、休みにくくなっています。
本人の希望を聞いておく
会社の都合だけで割り当てると、本気で覚えようとしません。本人がどの工程に興味があるかを聞いておくと、重なるところから始められます。面談や自己申告の場で拾えます。
できる作業が増えたことを、表に残す
覚えても記録に残らなければ、本人には何も起きません。スキルマップと評価の材料に反映するところまでを1件にします。
多能工化が進まないときの原因
方針は決まったのに動かない。原因はいくつかに絞られます。
| 症状 | よくある原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 誰も手を挙げない | 本人の利点が伝わっていない | 休みが取りやすくなることを示す |
| 教える側が渋る | 教える時間が業務になっていない | 教える時間を割り当てる |
| 覚えたのに使わない | 配置の判断で見ていない | その日の配置表で使う |
| 半年で手が戻る | 覚えたあと担当させていない | 3か月に1回は担当させる |
| ベテランが教えたがらない | 自分の立場が弱くなると感じている | 教えたことを実績として扱う |
教えることが損にならないようにする
自分だけができる状態が、その人の立場を支えている場合があります。教えた側の実績を記録して評価に反映すると、この構図が変わります。
忙しい工程から始めない
いちばん忙しい工程で多能工化を始めると、教える余裕が無くて失敗します。比較的余裕のある工程で1件成功させてから、忙しい工程へ移るほうが進みます。
全員を対象にしない
本人の適性や、勤務の形態によっては向かない場合もあります。全員を同じように多能工化しようとしないほうが、必要なところに力を集められます。
応援者と多能工化は、別のものとして扱う
人が足りない日に他部署から応援を呼ぶことと、自部署の人を多能工化することは違います。混ぜると、どちらも中途半端になります。
| 多能工化 | 応援の受け入れ | |
|---|---|---|
| 期間 | 継続的 | その日、その週だけ |
| 教える内容 | 作業を単独でできるまで | その日の作業と危険な場所 |
| 記録 | スキルマップ、確認表 | 受入教育の記録 |
| 任せる範囲 | 単独作業まで | 補助まで。単独は原則なし |
応援者に、単独作業をさせない
人手が足りないときほど、応援に来た人へそのまま任せたくなります。その日に来た人は、習熟の判定も許可も無い状態です。補助までにとどめるのが基本になります。
応援の受け入れにも、教育の記録を残す
その日のうちに何を伝えたかが残っていないと、事故が起きたときに説明ができません。危険な場所、緊急時の連絡先、やってはいけないことの3点は必ず伝えて記録します。
応援が常態化したら、多能工化に切り替える
毎月のように同じ人が応援に来ているなら、それは一時的な措置ではありません。正式に教えて、単独作業まで持っていくほうが安全です。
多能工化の進み具合を、数字で見る
感覚で「だいぶ進んだ」と言っても、判断ができません。数えるのは2つだけで足ります。
| 指標 | 数え方 | 目指す方向 |
|---|---|---|
| 1人しかできない作業の数 | スキルマップを横に読んで数える | 減らす |
| 1人あたりの担当できる作業数 | 単独可の印を人ごとに数える | 増やす |
半年に1回、数えれば足りる
毎月数えても、そう動きません。スキルマップを見直すタイミングで一緒に数えると、手間が増えません。
ゼロにしなくてよい
1人しかできない作業をゼロにするのは、現実的ではないことが多くあります。止まると困る作業から順に減らして、影響の小さいものは残すという判断で十分です。
人数だけを追わない
できる人の数が増えても、実際に配置されていなければ意味がありません。その作業を実際に担当した人が何人いたかも、あわせて見ます。覚えただけで使われていないなら、配置の判断のほうを直します。
多能工化の進め方にかかわる最近の動き(2026年10月時点)
多能工化の進め方そのものを定めた法令はありません。ただ、人に新しい作業を任せるときの安全衛生の決まりは、2024年から段階的に変わっています。一次情報で確かめられたものを日付順に並べます。
| 時期 | 出来事 | 多能工化の進め方への影響 |
|---|---|---|
| 2024年4月1日 | 雇入れ時等の教育について、一部の業種で認められていた項目の省略の規定がなくなり、危険性、保護具、作業手順、作業開始時の点検などの教育が全業種で必要になった(労働安全衛生規則第35条)。この条文は、作業内容を変更したときにも当てはまる | 2つ目の作業を覚えてもらうときも、その作業の危険性や作業手順を教えることになる |
| 2026年4月1日 | 改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)の主な規定が施行された。高年齢者の労働災害を防ぐため、作業環境の改善や作業の管理などの措置が事業者の努力義務になり、国が指針を公表することになった(労働安全衛生法第62条の2) | 年齢の高い人に作業を足すときは、覚えやすさだけでなく体の負担も見て選ぶ |
| 2026年5月27日 | 令和7年(2025年)の労働災害の確定値が公表された。死亡は全産業で700人(過去最少)、うち製造業は115人。全産業の事故の型では、はさまれ・巻き込まれが117人だった | 機械を扱う工程を2つ目の作業に選ぶときは、補助の期間を長めに取る |
多能工化の進め方で効いてくるポイントは、作業を1つ足すたびに、安全の教育も1回ぶん足すことです。習熟の確認と教育の記録を同じ表で管理すると、抜けが見つかります。
出典:労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)、労働安全衛生法の新たな化学物質規制(厚生労働省)、労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の概要(厚生労働省)、令和7年の労働災害発生状況(厚生労働省)
確認日は2026年10月3日です。作業ごとに必要な教育や資格は、所轄の労働基準監督署にご確認ください。
多能工化の進め方に出てくる用語
多能工化の進め方では、社内の言い方と法令の言い方が混ざります。出どころと一緒に並べます。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 多能工 | 1人で複数の作業を担当できる人。法令上の定義はない | 法令上の定義はない |
| スキルマップ | 人と作業を縦横に並べ、どこまでできるかを印で示す表。法令上の定義はない。厚生労働省は、業種ごとに必要な能力を示した「職業能力評価基準」と、それを簡単にした「職業能力評価シート」「キャリアマップ」を公開している | 法令上の定義はない(厚生労働省「職業能力評価基準」) |
| 作業内容変更時の教育 | 作業内容を変えたときに、その業務の安全や衛生のために必要な事項を教えること。雇入れ時の教育と同じ8つの事項が対象 | 労働安全衛生法 第59条第2項、労働安全衛生規則 第35条 |
| 特別教育 | アーク溶接やプレスの金型の取付けなど、危険または有害な業務につかせるときの特別の教育。受講者や科目などの記録を3年間保存する | 労働安全衛生法 第59条第3項、労働安全衛生規則 第36条・第38条 |
| 就業制限 | クレーンの運転など政令で定める業務は、免許や技能講習の修了などの資格を持つ人でなければつかせてはならない。従事するときは、資格を証する書面を携帯する | 労働安全衛生法 第61条 |
| 技能検定 | 厚生労働大臣が職種ごとに等級に分けて行う検定。実技試験と学科試験で行う | 職業能力開発促進法 第44条 |
多能工化の進め方で取り違えやすいのは、習熟度と資格を同じ印で表すことです。単独でできる腕があっても、就業制限や特別教育がかかる作業は、資格や教育が済んでいなければ任せられません。スキルマップでは、習熟度とは別の列で持ちます。
多能工化の進め方と一緒に押さえておきたいこと
多能工化の進め方を扱う記事の多くは、メリットと育成の手順で終わっています。ここでは、現場で配置を決める人が押さえておくと役立つ点を4つ置きます。
2つ目の作業を任せる前に、作業内容変更時の教育をする
安全衛生の教育は、雇い入れたときだけでなく、作業内容を変更したときにも行うこととされています(労働安全衛生法第59条第2項、労働安全衛生規則第35条)。十分な知識と技能があると認められる事項は、教育を省略できるとされています(同条第2項)。隣の作業を覚えてもらう最初の日に、その作業の危険な場所と作業手順を教え、日付を残すと、習熟の記録と教育の記録がそろいます。
資格が要る作業は、配置の表に資格の列を作る
就業制限のかかる業務は、免許や技能講習の修了などの資格を持つ人でなければつかせてはならないとされ、従事するときは資格を証する書面を携帯することとされています(労働安全衛生法第61条)。特別教育が要る業務は規則第36条に並んでおり、行ったときは記録を3年間保存することとされています(労働安全衛生規則第38条)。その日の配置の表に、習熟度とは別に資格の列を作ると、朝の1分で確かめられます。
多能工化のデメリットも先に数えておく
多能工化には、教える人の時間が取られる、覚えている間は主作業の手が薄くなる、1つ1つの作業の熟練が浅くなりやすい、といったデメリットもあります。どの作業を何人体制にするかを先に決め、それ以上は広げないと、デメリットを小さく保てます。全員を全作業に広げないという、この記事の考え方とも重なります。
育てる物差しは、職業能力評価基準を借りる
厚生労働省は、業種ごとに必要な能力を4つのレベルで示した「職業能力評価基準」と、チェック形式の「職業能力評価シート」を公開しています。スキルマップの印の付け方に迷ったら、自社の業種の評価シートから項目を借りると、人によって印の付け方がばらつきにくくなります。外部の物差しとしては、国の技能検定(職業能力開発促進法第44条)もあります。
出典:労働安全衛生法(e-Gov法令検索)、労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)、職業能力開発促進法(e-Gov法令検索)、職業能力評価基準(厚生労働省)。確認日は2026年10月3日です。
よくある質問
- Q. 多能工化は、全員が全工程をできる状態を目指すべきですか?
- そこを目標にすると数年かかり、途中で目的を見失いがちです。まず、単独でできる人が1人しかいない作業を数えて、止まると困る順に2人体制にしていくことをおすすめします。3か月程度で効果が出るため、本人にも必要性が伝わります。
- Q. 1人が同時に何工程を覚えるのが現実的ですか?
- いま担当している主作業に、隣の1作業を足す形が現実的です。単独でできるまでに6か月から1年かかることが多く、それから3作業目に入ります。同時に複数を覚えさせると、どれも中途半端になります。
- Q. 覚えた作業を使わないでいると、どうなりますか?
- 半年から1年で手が戻ります。覚えたあとも3か月に1回は実際に担当させることをおすすめします。長く離れていた場合は、危ない手順だけでも再確認してから任せてください。
- Q. スキルマップと多能工配置確認表は、両方必要ですか?
- 見る単位と頻度が違うので分けることをおすすめします。スキルマップは組織全体の一覧で年2回見直すもの、多能工配置確認表はその日のシフトで必要な技能がそろっているかを毎日1分で見るものです。朝の配置決めにスキルマップを開くと、情報が多すぎて判断できません。
- Q. ベテランが教えたがらない場合、どうすればよいですか?
- 自分だけができる状態が立場を支えていると感じている可能性があります。教えたことを実績として記録し、評価に反映する形にすると構図が変わります。あわせて、教える時間が業務として割り当てられているかも確認してください。
- Q. 応援に来てもらうことと、多能工化は同じですか?
- 別のものとして扱ってください。応援はその日限りで、習熟の判定も単独作業の許可もない状態のため、補助までにとどめるのが基本です。同じ人が毎月のように応援に来ているなら、それは一時的な措置ではないので、正式に教えて単独作業まで持っていくほうが安全です。
- Q. 多能工化が進んでいるかどうかは、何で判断すればよいですか?
- 2つ数えれば足ります。1つは、単独でできる人が1人しかいない作業の数で、これは減らす方向です。もう1つは、1人あたりが単独で担当できる作業の数で、こちらは増やす方向です。スキルマップを見直すタイミングで一緒に数えれば、半年に1回で十分です。あわせて、覚えた作業を実際に担当した人が何人いたかも見てください。覚えただけで使われていないなら、配置の判断のほうを直す必要があります。
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